雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

Playstation 3は何処へ向かうのか

年末たまたま会社の近くでヨドバシがPlaystation 3の60GBを売っているのをみつけて買った.PS3を買ったら無性にHDMI端子を持ったフルHDな薄型テレビが欲しくなり,SONYの40インチのを買った.で,ゲームは買わず,この正月は無償ダウンロードの「グランツーリスモHDコンセプト」や「どこでもいっしょ」で遊んだり,映画のトレーラーをみたり,デジカメ写真を表示したり,ブラウザでいろんなサイトを眺めてた.
PLAYSTATION 3(60GB)【メーカー生産終了】 ソニー SONY 40V型 フルハイビジョン 液晶 テレビ BRAVIA KDL-40V2500
正直なところゲームはWiiの方が面白そうだし,ようやくXbox 360もタイトルが出揃って旬ではあるけれども,やりたいゲームがある訳でもないのに無性にPS3が欲しかった.分解しもしないのに基板が奇麗とか部品コスト的にお買い得とか,そのうちEE+GS付のPS3にプレミアがつくかもとか,言い訳はいろいろできるのだが,本当の興味はPlaystation 3の前評判としてPCを超えた汎用コンピューティング・プラットフォームを狙っているといわれる志の高さに惹かれたのである.
雑誌記事ではなく利用体験として,彼らの心意気に興味があった.Xbox 360は最初からPCとの共存を念頭にビジネスモデルを描いているし,任天堂はゲームタイトルを含めた垂直統合型のゲームに特化したビジネスモデルを描いている.AppleIntelプラットフォームに靡いた今となっては,MPUからハードウェア,OS,開発環境まで一揃えに新しく用意できるプレーヤーは当面,SCEしかないのかなという期待があった.
結論としては後藤弘茂氏の記事の後半で指摘されている通りで,マルチコアでありながら操作性はPSP由来のシングルタスク志向で,マルチウィンドウどころかコンテンツをダウンロードしている間は他に何もできないようになっている.ひとつのコンテンツが数百MBから1GB超のPlaystation 3で,ダウンロードのプログレスバーを眺めているのは苦痛だ.しばらくテレビのチャンネルに切り替えてしまうにせよ.
システムソフトウェアに留まっているときの操作性については改善の見込みもあるが,外から挙動をみるにゲームがハードウェア資源を自由に使えるようにつくられているとすると,ゲーム実行中に何かをバックグラウンド実行するのは難しいかも知れない.実際は全てHypervisorの上で管理されているので,いずれOSがバージョンアップされたら,ちゃんと並行実行できますよという線に期待したい.
ダウンロードのバックグラウンド実行とかは細かい話で,本当に気になるのはPlaystation 3が本気でゲーム機の枠を超える気があるのか,例えばシステムソフトウェアはShellに過ぎないのか本来の意味でのOSなのかという点だ.実際のところプラットフォームとしての課題は,誰かが何かをやろうというアイデアを触発し,それを実装してもらえるかどうかではないか.PCがプラットフォームたりえたのもまさにその点にある.PS3は随所でPCを意識し,PCを超えようとしている割に,誰がPCを超えた,或いはPCと家電の良さを融合したような世界をそこに築くかといった点について出口がみえない.数年前はSONYのAV製品が徐々にEE+GSを経てCELLベースになっていくというロードマップがあったようにみえるけれども,このところの政治的な流れでは難しそうである.
マルチコア・専用プロセッサの集積という点ではCELLは業界の先鞭をつけていた一方で,消費電力を最小化する方向でのチューニングにはなっていなかった.それ以前に,数年間おなじハードを売り徐々にコストを下げつつ対応ソフトからのライセンス料を含めて数年でバランスさせるというゲーム機のビジネスモデルと,半期毎に新機種を出して競合他社と価格競争を繰り広げるデジタル家電のビジネスモデルとでハードウェアのコストに対する認識を共有できなくても不思議ではない.だからSONYのエレキ部門がCELLを採用しないのは,必ずしも政治的な理由だけではないのだろう.とはいえSONYはCELLに対して半導体プロセスも含めて数千億円を投資している以上,Playstation 3だけでそれを回収できるのか,それが難しい場合に何をつくるのかについて何か考えているのだろう.
Playstation 3ではLinuxが動作するものの,システムソフトウェアには独自OSを載せているようだ.SONYの家電分野ではHDレコーダ,テレビ,ビデオカメラと,プラットフォームのLinux化が着々と進んでいる.SONYに限らず家電各社のHDレコーダやテレビにLinuxが結構入っているようなのだが,その上のライブラリやコンポーネント・モデルがどうなっているのか,ばらばらにやっているのか,それなりに揃えているのかとか,その辺がよく分からない.単にTRONよりも近代的なOSとしてLinuxを採用しただけで,その上のソフトウェアスタックは建て増しの温泉旅館みたいになっているとすると,これからかなり苦しむのではないか.日本の携帯電話市場でも,かつて強かったベンダが自前でプラットフォームをつくろうと意気込んだ割には却って勢いを失っているし.汎用的なコンポーネントを組み上げるというのは,特定ターゲット向けの組み込みソフトウェア開発とは違った難しさがある.
Playstation 3からは様々な点で,家電メーカーがPCから何を学んだかということを感じることができる.統一されたユーザー体験や汎用的な入出力 (Ethernet, USB, Bluetooth, Serial ATA),自由なOSの入れ替えとか.ゲーム機から学んで独自の無線方式やコネクタを採用したXbox 360よりもPlaystation 3の方がPC的とさえいえる.一方でPlaystation 3がゲーム機を超える何かとなるかどうかは,もう少し様子をみる必要がある.
Playstation 2が最も成功したDVDプレーヤであるように,Playstation 3が最も成功するSACDプレーヤ,Blu-ray Discプレーヤとなることは約束されている.現行のXMBに限らず,STBやHDレコーダのユーザー体験を改善するための実験場として活躍するのだろう.ただPS3の設計思想は本来もっと上の目線だろうし,筐体も何となくNeXT StationやSGI IRIS Indyを彷彿とさせる.PCよりもユーザー・フレンドリーで家電よりもクリエイティブかつイノベイティブな何かになれば面白いんだけど,そのためのピースはまだ何か足りない.