雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

猿合奏のIPR Policyについて雑感

議事録に江島氏の発言もあったが,別の会社の連中でワイガヤと集まり,そのうち商売をやろうというのなら,IPRについての決め事は重要である。とはいえ,通り一遍のIPR Policyを適用して契約書にサインしようぜ,というような単純な話ではなく,猿合奏の競争力を最大限に高めて,みんなのテンションを損なわず,納得感のあるような取り決めを設計する必要がある。そのためにまず,自分たちのどこがすごくて,何を一番やりたいのか,という点について明確な合意が必要だ。
猿合奏では金儲けをやろうという話もしているけれども,根っこには時代を変えようという思いの方が強い気がする。本気で金儲けにfocusしたいんだったら,アイデアを片っ端からblogに書き連ねたり,会議の事前ネゴをパスワードさえかかっていないwikiで進めたりは最初からしないだろう。金儲けといっているのは,時代を変えるためには説得力が必要で,儲けるというのは分かりやすい効率性の証拠となる。収益はそれ自体が説得力を生むだけでなく,新しく何かを仕掛ける上でも必要だ。(それが正しいあり方かどうかは別として)どっちにしても時代を動かすためには必要なのである。
それに簡単なTrade offで,秘密にした方が儲かるかというと,ぼくはどうもそう思えない。猿合奏ユニットの素晴らしさは,長期的なビジョンに対する理解と,足下のビジネス環境に対する洞察とが,連続的に噛み合い,触発し合っているところにあるのであって,それはオープンなコミュニケーションによって加速するものだし,ぶっ飛び具合からしてblogを囓ったからといって空気を共有していない赤の他人が一朝一夕で真似できる話ではない。アイデア保護の軍拡競争に入ってしまうと,却って誰もがアイデアを囲い込み,触発し合わず,半煮えのアイデアのまま埋もれてしまうだろう。
ものすごくユニークで突飛なことをやろうとしているのなら,厳密な機密保持のもと数年間のスカンクワークをやるとよい。名前ひとつとっても,何をやってるか分からない適当なものをつくる必要がある。検討状況をblogで公開するなんてもってのほかである。
猿合奏のアイデア固有ベクトルの計算って使えるよね,複元的帰属のための情報インフラとしてblogとSNSは使えるよね,というような話は漠然とだけど世界中の人々が同じように触発されて競争しまくっている世界なので,アイデアを守ることよりもスピードが重要となるし,自分たちが他のプレーヤーよりもスピーディーに動ける領域を同定して仕掛ける必要がある。大手に真似されたら負けるようなことは,そもそも始めてはいけないのである。
むしろ,猿合奏のカルチャーみたいなものにスポットを当て,世界中の関心を集めて何かの「本家」となることが重要だ。そこで文化を発信し続ける求心力のなかで競争優位性を確立し,ビジネスに繋げていく,というような形がいいだろう。だとすれば,最先端の議論や葛藤をどんどん公開し,部分的に真似されつつも,真似できないコア・バリューを確立していく必要がある。
そういう戦術に適したIPR Policyを考える必要があると思う。ただ,Kondaraは世界を変えた(と僕は思っている)けれども,関係者はさっぱり儲からなかった。儲ける仕掛けを考えるには,文化発信源となった後に,その競争優位性を収益化するスキーム,ビジネスモデルを今のうちに考えておこう。そういうビジネススキームの方はアイデア以上に秘密にする必要がある場合もあるが,こちらはIntellectual Property RightsというよりはTrade Secretの領域なので,保護ルールは別に検討する必要がある。
仮にIPR Ruleをミニマルなものにするとしたら「抜け駆け権利化はしない」「利益相反が発生しそうな場合は事前に申し出る」「自分が権利を持っている技術をそしらぬ顔で提案はしない」「グループから出たアイデアを他人に提案する場合は,前もって通知する」といった,ラフなものになるだろう。ただ,利益相反の存在を知らせる場合に,自分の所属する別の組織との機密保持契約と抵触する場合どうするかとか,真面目に考える必要がある。
ガツガツ特許を取る場合,カネがかかるという問題の他に,公知の事実となってしまうと困るので,アクセス制限を行っていないblogやWikiには書けなくなってしまう。費用にせよ発表にせよ,権利化を前提とする場合のオーバーヘッドは非常に大きいので,個人的にはネガティブである。