雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

Firefox人気の示すモノ

Firefox PR 1.0が1週間近くで100万ダウンロードを超えたらしい。まだ日本語は出ていないので,正式版が出てローカライズされれば,日本でももっと話題になるだろう。ブラウザ戦争の再来,とメディアは煽っているが,あながち大げさともいえない。何せこの数週間で,ここ数年膠着状態にあったブラウザのシェアが数ポイントも動いたのだから。いいものを無料で出せばシェアが変わる。当然のことである。
IE脆弱性を突いたフィッシング被害の増加など,外因的要素もあったとはいえ,オーソドックスなブラウザとして,そこそこコンパクトかつ高速動作すること,流行りのRSSにきっちり対応していることが評価されたのだろう。しかしサイズのためにメーラ機能を削った割には,メーラ,Newsリーダ,IRC機能も統合したOperaよりインストーラが大きいのはどうした訳だろうか。Operaは買わないと広告が外れないので,Firefoxほど流行りそうもない。けれども,Opera 7.5を気に入ってレジストしたばかりの自分としては,Firefoxのことを技術的にはそれほどすごいとは思わない。
考えてみればブラウザ戦争とは無料化と肥大化の歴史だった。メーラが統合され,Java ScriptやJavaのランタイムが統合され,NewsリーダやカレンダやIRCクライアントが統合され,その狎れの果てが,IE4.0であり,Mozilla 1.xである。どちらも単体のブラウザであることに飽きたらず,ランタイムやデスクトップを取り込もうと肥大化した。その反動がコンパクトさにこだわったOperaであり,デスクトップ統合をやめたIE 6.0であり,メーラやXULを捨てたFirefox 1.0だ。
つまるところ,ユーザーはWebブラウザに求めているモノはMosaicNetscape 1.0の頃からさして変わっていない。不毛なブラウザ戦争の中でヒートアップして,ブラウザをブラウザ以外の何かにしようと仕向けたのは,むしろベンダであり,投資家であり,マスコミだった。同じRDF/RSS対応にしても,Point Castの影響を受けて開発された,派手で実用性に欠けるNetscape NetcasterやActive Desktopと,控えめかつ便利なFirefoxRSS機能とを比べれば,同じ技術の導入の仕方ひとつ比べても,周囲の過剰な期待がいかにプロダクトの方向性を歪めるかの好例といえるだろう。
結局のところFirefoxはユーザー・フィードバックの帰結としての原点回帰である。従ってFirefoxが少々普及したからといって,往年のようなブラウザ戦争を引き起こすかというと,かなり疑問がある。少なくともユーザーがアプリケーションとしてのブラウザに求める要件が成熟していることを示しているからだ。IEが"コンポーネントとしてのブラウザ"というコンセプトを打ち出し,それはMacにもLinuxにも真似された。
しかしFirefoxには,そういった意味での新しいコンセプトが感じられない。そういう山っ気を削ぎ落とした洗練であるからだ。RSS対応やダウンロードマネージャなど,FirefoxがアプリケーションとしてのブラウザとしてIEよりも優れている点はいくらでもあるけれども,そういった特徴を備えたIEコンポーネント・ベースのブラウザは他にいくらでもある。Firefoxは高い完成度のブラウザ・アプリケーションではあるけれども,それがIEではないということ以外の価値を提供できるかは今のところ未知数である。