雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

Microsoftはウェブ・サービス型OSにシフトすべきだったのか

ここ数ヶ月あまりblogを読み書きしないからだになっていたので見落としてしまったけれども,中島さんが面白いことを書いている.いまのタイミングでは素直な感想という気はするけど,Longhornの問題はひとえに遅すぎたことだ.なぜ遅くなったかといえば,全てを新しくするために何でも突っ込もうとする計画に無理のあったところに,Codered, NimdaやBlasterといったセキュリティ・インシデントが相次いだことだ.巨大なプロジェクトに取り組んでいるときに,貴重な技術者を既存製品のセキュリティ向上に取られてしまった.
ではスケジュールを抜きにLonghornの方向性は正しかったのかという点に議論を移すと,ぼくは中嶋さんの主張に同意できない.上場企業にとって大切なのは,一義的にはalpha geekの喝采を浴びることではなく儲けることだ.そしてWindowsのビジネスモデルとは,高性能のパソコンがもっと売れるようなOSをOEM企業に提供し,パソコンの出荷増を通じてライセンス売り上げを増やすことだ.その上で,ブロードバンド化やセキュリティなど時代の変化を踏まえ,ネットワークでのユーザー体験を向上させ,検索などローカルで不便だった領域ではネットワーク上と同じことができるようにし,セキュリティ・インシデントの増加を受けて,より信頼できるプラットフォームを提供する,という方向性は基本的に正しい.ハードベンダからのライセンス料というビジネスモデルを続ける限り,付加価値がネットワークではなくPC本体に残すための投資を続けざるを得ない.
これも後付けの理屈になるが,問題はOSやOffice,開発ツールといったクライアント側でWeb Serviceに熱心に取り組んだ一方で,MSNなどのサービス側では全くWeb Serviceに取り組まなかったことである.それはPassportが頓挫した影響でもあるし,ポータルとしてBGの利益を最大化する上では正しかったのかも知れないけれども,結果としてGoogleの先行を許してしまった.
いまではMSN Virtual Earthをはじめとして,Web Serviceとしてコンテンツを再編する方向性を示しつつあるし,7部門あったものが3部門に再編され,MSNとOS,開発ツールは同じ財布を共有し,今後はWeb上のサービスについても,OSのプラットフォームと連携して総合的な顧客価値を高める方向で投資できるようになった.かつてDigital Researchを,Lotusを,Novellを,Netscapeを追いかけたように,これからはGoogleを追いかけるのだろう.そして,この会社はその手の競争には負けない気がする.それともGoogleは自在に生まれ変わり続け,ルールを変え続けることができるのだろうか.(その可能性はある)
どこぞの国のように他人の背中をみてしか走れないのは,今に始まった大企業病というよりは昔からの遺伝子みたいなものだ.これまで後発でも先駆者を追い抜けたのは,ソフトウェアの配布手段やビジネスモデルが限られ,十分に時間を稼げたからだ.ブロードバンド・常時接続の普及で新しいサービスの流通コストも普及にかかる時間も劇的に下がった以上,従来型のキャッチアップ・モデルが引き続き機能するかは予断を許さない.
けれどもソフトウェアのサービス化による影響がより深刻なのは,Google追撃に舵を切った巨大企業よりも,言葉の壁に守られて,もっと小規模なキャッチアップ・モデルを続けてきた日本のソフトウェア産業かも知れない.実際,Google Mapの開放でン万円もする地図ソフトを売ることは非常に難しくなってしまった.西海岸で起こっている競争の最前線は高みの見物できても,火の粉の方は日出ずる国にもパラパラと飛んできているのだから.

私も今になって気がついたのだが(後から言うのは簡単である)、マイクロソフトWindows XP を出した後は、ウェブ・サービス型OSへのシフトを本気ですべきだったのだ。MSN や Expedia などが提供する各種サービスをウェブ・サービスの形に正規化し、進化させ、かつサードパーティを巻き込んで、そういったサービスへのアクセスを Longhorn の標準APIとしてプログラマーに提供すべきであったのだ。