雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

地デジ問題の落とし処

前の会社にいた頃なので4年も前のことだが,地デジの反対運動を手伝っていたことがある.地デジ反対論をぶつ僕に対し,総務省に近い当時のボスは「ちゃんと向こうのお偉方も分かって,悩んでるよ.誰も傷つかないように軌道修正するんじゃないか (だから君たちが下手に騒ぐと向こうも引っ込みがつかなくなるから気をつけようね)」なんていってたけど,ずるずるとここまで来てしまった.膨れ上がるアナアナ変換費用をどうにかするために,昨年は電波利用料問題が火を噴いた訳だが...
放送局というとキー局のことしかみんな思い浮かべないが,こと地デジに関してはローカル局の経営問題だった.もともとは衛星やネットになればキー局が直接,日本全国に番組を配信できるので,キー局からのCF配信代行手数料で成り立ってきたローカル局の存在意義がなくなってしまう...という議論だったのが,この間コピーワンス見直しやIP再送信を認める方向の情報通信審議会答申が出たので,ネットが放送チャネルとして認知されることは確定し,残るはアナアナ変換や中継局のための膨大な投資をいつ打ち止めるのか,という議題に移りつつある.
ちょっぴり悲観的というか現実的な見通しを書く.2007年ごろから放送を含めた魅力的なコンテンツは一通りネットで視聴できるようになる.2011年,地デジはそれなりの視聴者を獲得するけれども,いくら中継局に投資してもカバレッジは地上アナログ放送ほどには上がらない.いずれ財務省から「で,いくら投資すれば足りるか正しく試算できてるの?」と突っ込みが入った時点で,BSデジタル/地上波デジタルをサイマル放送とすることで,中継局投資を打ち止めつつデジタル放送のユニバーサルサービス化を実現する方向へ方針転換するのではないか.NHKユニバーサルサービス義務も,島嶼については衛星でカバーしているという建前だし.その頃には既に破綻しているBSデジタル各社を系列キー局が吸収合併しているだろうし,カネのかからない再放送や通販番組を適当に流していたBSデジタルを地上デジタルとのサイマル放送にしても,放送局としては困るどころか経費が減って助かるだろう.誰もアナログ停波で空く予定のVHF帯など使いたがらず,アナログテレビを使い続けるひともいるということでアナログ停波は中止.そして放送デジタル化という政策の無謬性を守り抜くために数千億円をどぶに捨てた関係者たちは,その頃には責任を問われない別のところにいる,それだけの話だ.数千億円で他に何ができたかを考えると片腹痛いが,使ってしまったお金を惜しんでも仕方ない.
それよりも地方局の存在意義というフィクションを守るためにネットの可能性を矯めるという従来の政策*1を,郵政民営化問題の隙を突いて早業で撤回した総務省に拍手を送りたい.数年前の議論を振り返ると,これはかなりすごいことだ.つまり,Appleが革命を起こすどころか,ごく最近,総務省が無血革命を起こしていたのではないか,というのが僕の私見である.
税金の無駄遣いを責める相手は今の総務官僚やARIBではなく,まだ引き返せた頃の放送行政担当官や,何度も通信・放送融合を睨んだ法案を廃案にし続けた与野党の政治家たちではないか.まぁ彼らを断罪せずに済むからこそ,無血革命が実現したんだろうけど.

放送局の人たちも役人たちもこの事実を漠然とは認識してはいるのだが、ここまで話が進んでしまった段階では後戻りが出来なくなっているのだろう。

*1:これは恐らく総務省の本意というよりも,与野党を問わず政治家の意向だった