雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

オンライン・ファーストとチープ革命

いずれP2Pからヒット曲が生まれれば音楽ビジネスも変わるんじゃないかと思ってたけど,着うたでヒットしてCDデビューなんて流れが出てきたことは感慨深い.これまでの著作権論議はオフライン上のコンテンツをどうやってオンライン上に供出させるかという流通チャネルのオンライン化の議論だった訳だけど,いよいよクリエータを発掘し,エンパワーし,コンテンツを継続的に生み出していく生産プロセスのオンライン化が進むだろう.
いわゆるチープ革命によって情報の製作コストも流通コストが低くなると,資源を集中してトップダウンで流行をプロデュースするよりは,ネット上のアーリーアダプティブな層を後追い・プロモートした方がROIの高いコンテンツビジネスを展開できるようになった.電車男にせよ,のまネコ騒動にせよ,背景にはそういったコスト構造の大きな変化があるのではないか.
本にせよ音楽にせよ,オンラインとの競争*1の中で超過利潤が減り,従来の非効率的なプロモーションをファイナンスし続けることが難しくなりつつある.音楽に限らずプロデュースの現場から無駄がなくなっていく過程で,既にブランドの確立したクリエータからのキャッシュフローを最大化しつつ,それを次世代を育てるためにまわすよりは,オンライン上のオリジネータをオフラインに持ち込むというアービトラージで儲けようという動きが増えるだろう.その方がオンラインのフィルタを経た歩留まりの高いクリエータに対し,小額を分散投資することでリスクを分散できるからだ.
この動きはいわゆるコンテンツ業界だけでなく,ソフトウェア業界にも広がりつつある.オープンソース・プロジェクトや未踏ソフトウェア開発事業で発掘された技術者たちが,開発した技術を商用化しようとした途端,重層的な下請け構造に組み込まれることもあるのである.運よく素晴らしいエンジェルを捕まえたとして,ソフトウェアを世に出して資金を回収するフェーズでは,チャネルとしての業界とは付き合わざるを得ない.
世界を変えるためにお金はかからなくなった.エンパワーされた個人がどんどん世界を直接相手にしている.けれどもそれを産業化しようとした途端,旧態然とした世界に引き戻されてしまうのは何故だろう.件の子たちも,着メロがなかったらデビューしなかったかも知れない.彼らも,着メロをダウンロードしたモブたちも,確かにITによってエンパワーされた.けれどもデビュー以降の彼らは,特に他のプロ・ミュージシャンと変わらないのだろう.
チャネルが変わりつつある,登竜門も変わりつつある,じゃあこれからビジネスモデルは変わるのだろうか.変わらなくていいのだろうか.ボトルネックはどこにあるのだろうか.僕は何となく社会的信用とか,ある種のファイナンスのところにあるような気がするけれども,何となくSNSPICSYよりも分かりやすい解法を探している.

「着うたで1万件のダウンロードがあったらCDを製作してあげる」。所属事務所もないまま、東京・代々木公園付近で自発的に路上ライブを続けていたところ、着メロ配信会社のスタッフにスカウトされた。
 無名などころか、CDを製作したことすらないためラジオや雑誌でも紹介されない。宣伝の場は路上ライブと、着うた配信サイトだけ。悪条件にもかかわらず、5月に持ち歌「タイムリミット」の配信が携帯ネット上で始まると、1週間でダウンロード数は1万8000件以上に。あっさりノルマをクリアし、夢を現実に引き寄せた。

*1:ここでは単にレコード屋iTMSとの競合といった狭義の競争よりもむしろ,携帯電話やネットとの可処分所得・可処分時間の奪い合いといった広義の競争を指す