雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

誰も持ち得ない戦略技術がない世界の競争戦略

梅田さんは「技術志向の経営」を、誰も持ち得ない「戦略技術」を通じた差別化を指向する経営と定義している。けれども、世の中にそうそう真似できないものなんかない。WindowsとOffice、Google検索エンジンAppleiPodだって、そう真似の難しいものではないだろう。WindowsとOfficeよりもVisiCorpのVisiOnが先だったし、GoogleよりもAlta VistaInktomiが先だったし、iPodよりも無数のMP3プレーヤが先にあった。彼らが成功してからも、二匹目の泥鰌を狙って無数のウィンドウシステムとOffice Suite、分散システムやページ間関係にフォーカスした検索エンジン、シンプルな操作性と斬新なデザインのMP3プレーヤは登場している。
結果的に競争を勝ち抜いた彼らは、よほど卓越した技術を持っていたのだろうか。そうではない。どこにも真似できない技術なんかないし、もしとある技術が真似できないと考えていたら、それは技術者の奢りだ。誰も持ち得ない戦略技術なんてどこにもないし、どんな破壊的イノベーションも気づかれた瞬間から大企業によって持続的イノベーションへと回収されていくからこそ、起業家が市場の歪みや隙に気づいたら、誰も持とうとしない技術に投資し、誰も持ち得ない事業上の優位性を確立し、その上に継続的かつ相互依存的な事業構造を確立するための知恵が必要なのである。
MicrosoftAppleGoogleといったイノベイターの系譜をみていると、当時それをやっていたベンチャーで彼らしか残っていないから、あたかも彼らが市場を切り開いたようにみえるけれども、その陰に同じ時期に似たようなコア技術を持っていながら、同業他社や大手との競争に潰されていった無数のベンチャー企業群、大企業の研究所で生まれ斬新だったけれども市場に投入されないまま朽ち果てた無数のプロトタイプに気づくことができる。
数少ない「技術志向の経営」に成功しているベンチャーの系譜をみていると、いくつかの共通した競争戦略が浮かび上がる。

  • 価格はマーケットインで決めよ
  • 既存技術の費用構造の歪みに気づけ
  • 分かりやすく差別化された顧客体験を提供せよ
  • 技術的には賢い競合他社ほど真似しない馬鹿をしろ
  • 先行他社が真似できない傍若無人な事業構造をつくれ
  • 仕組みや提携を梃子に、早くから多数の顧客へのリーチを持て
  • 誰よりも速く技術を市況品化・相互接続し、他社の投資意欲を殺げ
  • 競合他社が追いつく前に外部性と経路依存性を確立し、動く標的となれ

次回以降、いくつかの具体的なケースについて、これらの特徴がどう当てはまるかについて検証し、日本でなかなか「技術志向の経営」が行われない産業構造上の理由を考察する。

企業戦略と技術の関係について議論する場合、その企業が「高い技術」を有しているか否かということ以上に、その「高い技術」が果たして「基盤技術」にすぎないのか、それとも「戦略技術」たり得るのか、ということがより重要である。
(略)
ライブドア経営陣は、少なくともある時期以降、自社の成長を、M&Aと提携戦略とブランド戦略(堀江ブランド)を軸に、スピード速く展開しようとした。自社が有する「高い技術」は、それを支える「基盤技術」として位置づけた。誰も持ち得ない「戦略技術」を開発し、それで道を切り開こうとする「技術指向の経営」ではなかった。