ソフトバンクのVodafone買収が引き金を引く携帯コンテンツと国産携帯端末事業の統廃合
ソフトバンクがVodafoneと国内携帯電話事業について買収交渉を行っていることを認めたようだ.この買収が成立するかどうかは未知数だが,仮に成立すれば携帯電話市場が激変するだけでなく,携帯コンテンツ事業者や国産携帯端末事業の再編に繋がる公算が大きい.ここへきて「はてしない物語」から「神話の終焉」に転落する可能性が出てきたのだ.*1
もともとVodafoneになってから英国本社主導の経営が日本市場にそぐわず,周りから「voiceだけfone」と揶揄されたり,優秀な人材が1年〜半年前くらいからだいぶソフトバンクに引き抜かれていたので,どうするんだろうなとみていたら,思いのほか早く音を上げたことに少々びっくりしている.
この買収交渉は圧倒的にソフトバンク優位というか,写メールの開発者はじめキーパースンを事前にソフトバンクが引き抜いていることもあってVodafoneの事情は全てソフトバンク側に筒抜けになっている可能性が高いし,あとは如何に悲観的なシナリオを描き,1.7GHzでの新規参入ともコストを比較しながらどこまで買い叩けるか,そして買収資金をソフトバンクどうやってファイナンスするのか*2といった点に絞られるだろう.
個人的にはソフトバンクが1.7GHz帯への新規参入よりもVodafone買収を選んだ理由も気になる.*31.7GHz帯で携帯電話に新規参入すると,多くの事業者が名乗りを上げることになる2.5GHz帯でのWiMAX参入で不利になるとでも考えたのかな,とか,これからW-CDMA網を整備するなんて仕事としては二番煎じというかつまらないよな,とか,これで「日本テレコムがVodafoneに携帯電話事業を売ったのに,日本テレコムの親会社となったソフトバンクが再び新規参入事業者として名乗りを上げるのはおかしい」という電波村の理屈にも堂々と対抗できる,とか,顧客獲得にかかる時間やコストまで考えると割安な買い物なんだろうな,とか.
ところで仮にソフトバンクがVodafoneの顧客と基地局網を居抜きで手に入れるとなると,コストや競争力を左右するのは端末や販売報奨金をどうするかである.コストを下げるには販売報奨金を減らすのが最も手っ取り早いし,販売報奨金を減らしつつ端末の末端価格を下げるには,一説には5万円以上もしているといわれる端末のBOMコストにメスを入れるのが手っ取り早い.
Vodafone凋落の原因のひとつは端末をグローバル調達に切り替えて電話料金を引き下げる戦略が裏目に出たこともあるので,同じ轍を踏まないよう注意する必要はあるけれども,問題はどうやって他社と差別化するかであって,数年前まで続いていた端末による差別化は,ここへきて煮詰まりつつある.
当面は「国内端末ベンダによる高付加価値路線」と「海外の低価格端末&低料金+サービスによる差別化」を両睨みで走らせつつ,徐々にYahoo!のコンテンツや日本テレコムとのFMCなど端末以外の付加価値と価格戦略とでドコモやauの顧客を巻き取りつつ,新たな法人需要を開拓しようとするだろう.
W-CDMA陣営はこれからHSDPAで回線容量が増えるし,ドコモやauと比べて携帯コンテンツ事業者とのしがらみが小さくネット・コンテンツでは最強の集客力を誇るソフトバンク・Yahoo!なら,携帯コンテンツにとっては破壊的技術となるフルブラウザにも戦略的に取り組めるし,端末自体の付加価値による競争からサービスの付加価値による競争に徐々に軸足を移して販売報奨金を徐々に絞って電話料金で価格競争を仕掛け,ガラパゴス島的な進化を遂げた国内携帯コンテンツ市場を普通のブロードバンド・コンテンツ市場に巻き取ることもできよう.
そういった競争になればドコモ・auも後出しで同じ手を打たざるを得ないし,流れ弾が飛んでくるのはYahoo!をはじめとしたブロードバンド・コンテンツ事業者との仁義なき競争に晒される携帯コンテンツ事業者,端末からサービスへの付加価値移転と販売報奨金の縮小で海外端末ベンダとの競争が加速し,これまで以上に端末を買い叩かれる国産携帯端末事業ではないか.いずれも国際的にみて事業基盤は脆弱だったところに国内市場も激変し,再編は避けられないのではないか.
というわけで、ナンバーポータビリティ制の導入はソフトバンクの登場によって、携帯電話業界の最悪シナリオを実現する引き金になりそうな気がしてきた。たぶんこれから、各社とも必死でこのさらなるチキンレースからの脱出をはかるべくあがきまくるだろうが、さてどうなるか。数年後にはドコモ、auの大リストラが待ち受けているような気がして仕方がない。南無。
当初の割り当て周波数が5MHz幅(250万加入分)と少ないこと、2007年の段階ではサービスがデータ通信のみで、音声端末を使ったサービスは2008年以降となることから、既存事業者に対抗するには自社だけでは難しいと判断したもようだ。
*1:4年ほど前にgoogle:2010年の移動通信業界を見通す 四つのシナリオという研究に入れ知恵したんだけど,この頃はi-modeが無敵で日本のケータイ万歳という陶酔が支配的で「4Gに6GHz以下で1.9GHzほど割り当てようぜ,お,まだ1GHzほど足りないからどうしかしなきゃ」なんてふざけたレポートが総務省から出たものだから,無線LANを持ち上げて陶酔に少し水をかけてやろう,というノリで入れ知恵したら,当時としては携帯電話業界について悲観的なシナリオを描いたのが珍しかったらしく,あちこちの媒体で取り上げられた.実際のところ無線LANは周波数不足とか電池の問題とか色々とあって,そもそも携帯電話に取って代わるような技術ではなかったんだけど,気づいたら最近の総務省の方針としては既存事業者によるAdvanced IMT提供ありきというシナリオではなくて,1.7GHzを新規事業者に,2.5GHz帯は非IMT系WBB技術に割り当てようねという至極真っ当な方向に向かっていて,何もいきり立たなくても,おかしな方向は時が解決してくれるんだなー,と安堵していた.
*2:id:R30さんの「2兆円の買収資金は新株や社債の発行、ヤフー株売却などで捻出するんじゃないか、とのこと。付け加えるなら、後はボーダフォンの資産を担保にしたLBOですよたぶん。これなら何とか1兆円は調達できると思われ。」という指摘に納得
*3:追記: どうもCNETの分析が正しそうだ.一刻も早く音声に参入したいこと,新規事業者に割り当てられる周波数幅が小さいことが理由なんだろうな