雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

青空文庫×Googleから眺める戦後文壇ジャンキー事情

日記でマイミクが「ヒロポン=韓国の覚醒剤」という註を入れていて,突っ込みを入れようと調べて驚いたのが,商標登録されている日本では通称がシャブと変わったのに対し,韓国じゃ今もヒロポンで通っているらしい.実際google:site:japanese.joins.com ヒロポン]とかやるといくつか出てくる.ヒロポンというと太宰治が中毒していた印象があるのだが,[google:site:aozora.gr.jp ヒロポンとやって出てくるのはダントツに坂口安吾で,後は織田作之助やら林芙美子である.
はたと思いつきgoogle:site:aozora.gr.jp モルヒネとやると明治から昭和に至る文人がゾロゾロ,もちろん太宰も出てきた.モルヒネは麻酔として明治の頃には使われ,医療での利用は長く続いたのに対し,ヒロポンは大日本製薬が開発して登録商標を取得し発売が昭和17年ごろで昭和24年には厚生省から製造中止の行政指導が出て昭和26年には覚せい剤取締法が施行された訳で,名が通っている割に堂々と流通していた時代はそれほど長くない.名前ほど小説になっていないのか,ヒロポンを扱った小説の著作権がまだまだ切れていないということか.戦後まもなく『堕落論 (新潮文庫)』で急に売れた安吾は,錠剤の方のヒロポンを噛み噛み無理をしたのであろうか.
いわれてみれば『人間失格 (新潮文庫)』にある太宰の「生まれてすみません」的な芸風はクスリといってもダウン系で,モルヒネやヘロインの方が似合っているのかも知れぬ.酔った勢いでどうでもいい女と情死するのと,クスリが切れて暴れることがあっても年下の女房に看取られるのと,どちらの人生が幸福かは分からない.ただ中学のころ太宰にハマって下らない自尊心に立ち往生していた頃,憧れていた年上の女友達から安吾の『不良少年とキリスト』を勧められて以来,僕は太宰よりも安吾が好きで,自分は安吾的と思うような物事の見方をしてきた.栄養ドリンクや覚醒剤のお世話になることはないが,僕くらいの忙しさじゃ安吾だってヒロポンには手を出さなかっただろう.
しかし太宰でヒロポンを連想したのは私だけでなく下記の通り安吾もそうであったらしい.何というか僕と安吾が同じ連想をして,Google先生安吾にせよ織田作之助にせよ厳然と事実を示したことは興味深い.別に作家が悪いことを書いたから本人もやっているに違いないというのも下衆の勘ぐりではあるが,身近なものほど論じたり小ネタに使うこともあるのかも知れず,様々なコトバをGoogleに引っかけて青空文庫に収蔵された小説を猟集するのは意外性もあって楽しい.

石川淳だの太宰治というヒロポン型の先生がヒロポンを用いておらず、荒正人だの私のようなのがヒロポンを濫用しているのは、はなはだしくスタイルを裏切るものだから、私もヒロポンはやめたいと思っているのだが、近ごろは万事スタイルの混乱時代で、先日代々木の街頭で、おれがこの道を歩いているとだれでも共産党だと思うだろうな、と言ったら、友人のいわく、さにあらず、共産党はみんなオシャレだよ。とても、身だしなみがいゝんだ、という話で、私みたいのボロ洋服、頭髪ボウボウは共産党にもしてくれない。よってヒロポンを飲み、スタイル混乱期のおつきあいをしているような次第なのである。