雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

技術者不足説にみる員数主義

最近あちこちの記事で,組み込みプログラマが9万人も不足しているという話が引用されている.どうもこの辺がネタ元っぽいのだが,サイトが落ちているのかpdfをダウンロードできない.
プログラマの需要なんて開発環境の生産性や,事業者の統廃合でいくらでも変わり得るし,特に組込系のように資源が潤沢でないシステムの場合,足りないからといって即席で育成できるものか疑わしい.
ちょうど文藝春秋の最新号が太平洋戦争のことを特集していて,そこで旧陸軍の悪しき員数主義について触れている.書類上の体裁を整えるために戦闘能力や兵站を無視した配置を行い,何割もの兵を犬死させ,餓死させてしまったという話だ.
技術者不足説も員数主義と似ていて,確かに雇用者数のカーブをつくり,あちこちで技術者が足りないという話を集計すると,○万人足りないという話になるのだろうが,員数を埋めればプロジェクトを完遂できる訳ではなかろうという話は『人月の神話―狼人間を撃つ銀の弾はない (Professional computing series (別巻3))』の昔から言い古された通りである.
彼らは一方で日本にはメーカーが乱立していて国際競争力が低いといい,技術者の待遇が低いと嘆く一方で,技術者が足りないといっていることの矛盾に気付いているのだろうか.本当に技術者が足りなければ,ハードごと事業統合するなり,ソフト部門を切り出して共通化するなり,外からソフトを買ってくればいいのである.
各社とも内製にこだわり続けるから,受託以外のソフト産業がなかなか育たないし,技術者確保に苦労し,確保できても熟練技術者の割合が減ってスケジュール通りにプロジェクトが進まないのである.そこでエンジニアを増やしても質は下がる一方だし,生産性の低下や開発リスク増大の煽りで熟練技術者の待遇まで悪化しているのではないか.
無論,開発現場にソフトウェア工学の知見はもっと生かされるべきだし,日本の大学に於けるソフトウェア工学教育には色々と課題があるのだが,メーカーから上がってくる悲鳴を額面通りに技術者不足と受け止める発想の背景に,頭数さえ揃えればどうにかなるという員数主義があるのではないか.
技術者を育て,その質を高めていくことの重要性は否定しないけれども,本当に技術者が不足しているのか,目先の問題を解消する方法は他にも考えられるのではないか,という視点は持っておくべきだ.
安直な技術者育成は産業構造の転換を妨げ,技術者の待遇を慢性的に悪化させている疑義がある.中長期的には優秀な技術者の国外や他業種への流出を招き,結果的に却って国際競争力を毀損することになるかも知れない.