雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

革命の胎動

なんか時代の空気みたいなもので確証はないが、今年は地デジにとって音楽に於ける1998年のような年になりそうな気配を感じる。1998年って韓国でMPManが商品化されてNapsterが開発された年だ。ほんの十年前、CDをリッピングしてFTPやCD-Rで交換していたのは限られたアキバ系のオタクで、単なるMP3プレーヤが衝撃の問題作と取り沙汰されたことを覚えているだろうか。ヘッドフォンステレオを発明したにも関わらず、権利者に気兼ねしてMP3プレーヤで大きく出遅れた国産メーカーは、気づいたら韓国台湾メーカーやAppleにシェアもブランドも奪われた。
閑話休題コピーワンスダビング10へと制限を緩和されたが、JEITAがHDDレコーダへの指摘録音録画補償金を批判するパブコメを出したことに権利者団体が反発して状況が混迷している。コピーワンスを無視したUSB地デジチューナーFriioが製品化され、ARIB STD-B25のデスクランブラ*1が公開された。佐賀での区域外同時再送信を認める裁定を総務省が出し、山間僻地の難視聴を衛星同時再送信でカバーすることも決まったが、これは従前の業界秩序であった県域免許の枠組みを大きく揺さぶるかも知れない。
これまで地場の政治家と地方局が結びついて改革を阻害していたが、地方局を守るために地方住民の視聴できるコンテンツが意図的に制限されることに有権者は納得するだろうか。片や地デジのカバレッジを向上させるために財政支出を行い、一方で田舎の連中は民放5局をみれなくてもいいという主張は整合性に欠ける。仮に地上放送をユニバーサルサービスと位置づけるならば、誰もが衛星同時再送信で在京キー局の放送もみれるようにすべきだ。
ダビング10コピーワンスよりましだがアナログと比べて不便である。僕は10回以上もコンテンツをコピーしたいと思わないが、コピー回数よりもメーカー間の互換性が心配だ。例えば家電メーカー製のHDDレコーダがiPodへのコンテンツ転送をサポートするだろうか。例えばパソコンで携帯電話やiPodに録画したテレビ放送を転送するとか、これまでアナログ放送の逃げ道で実現されていたことの多くがアナログ停波後には難しくなる可能性が高い。
わたしは基本的にDRMを使うかどうかコンテンツホルダが決めればいいと考える。利用者にとって本当に不便であれば、そういったサービスやコンテンツは自然と市場で淘汰されるからだ。けれども地上放送は、高い経済価値を持つ電波帯域を価値に見合わない低廉な利用料で免許され、視聴エリア拡大のために補助金を受けている公共性の高いサービスである。そして帯域の希少性が高く免許制であるが故に市場での競争が機能しない。
どうしてもDRMをかけなければ放映できないコンテンツは衛星やCATVの有料放送で流せば良いのであって、公共性の高い地上放送はDRMフリーで流せるコンテンツだけを流せばよいのではないか。日本以外のデジタル放送にはコピーワンスダビング10のような制限はないし、Broadcast Flagでさえ米国議会で問題とされたのだ。放送局があくまで私企業として権利を主張するのであれば、周波数オークションを通じて市場価格で免許を落札し、補助金には頼るべきではない。
音楽配信のときも利用者そっちのけで既存ビジネスをどう守るかの議論ばかり行われ、結果的にNapsterなどによる違法ダウンロードの擡頭を許し、出遅れた国産メーカーの国際競争力は大きく損なわれた。Friioを台湾から購入して放送コンテンツをアップロードする先進ユーザーはごく一部だとしても、DRMをはがされた動画はP2Pで共有され、或いは動画投稿サイトに投稿され、多くの人が利用する。
こういった海賊行為を容認すべきではないが、現実問題としてDRMは本質的に脆弱であり、これだけ家電に組み込まれていると破られた技術を更改することは極めて困難である。アナログ放送では実現していた私的利用までが、技術や事業者の都合で難しくなることが社会的に容認されるだろうか。放送局や家電メーカーは地デジのカジュアルコピーが流行る前に、機器を選ばないオープンな選択肢を示すべきではないか。消費者の利用シーンを無視した厳しすぎる権利制限や後方互換性の欠如は、それ自体が規制の正当性を損なうことに早く気づくべきだ。

*1:実際のところPC用の地デジチューナーは映像のデコード後に再暗号化しているので、このソフトの登場によって直ちに復号ができる訳ではないが、地デジがクラッカーの関心あるいは攻撃の対象となったことは気になる動きだ