雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

緊急フォーラムへ向けて有害コンテンツ規制の論点整理

コンテンツ政策フォーラムが21日、慶應大学三田キャンパスで未成年者向け携帯フィルタリングサービス原則化についての緊急シンポジウムを開催する運びとなった。情報通信政策研究会議も1月30日に国際大学GLOCOMで有害コンテンツ規制についての緊急シンポジウムを予定しており、告知へ向けた準備を進めている。2月の通常国会を前に各界で議論され、論点整理が進むことになるだろう。これらシンポジウムを前に、この問題についての僕の認識を整理したい。

DMC機構では、来る2008年1月21日、三田キャンパス北館ホールにて、コンテンツ政策フォーラム「インターネット上の安全・安心に関する緊急フォーラム - 未成年者向け携帯フィルタリングサービス原則化の是非を問う」を下記要領にて開催いたします。ご関心をお持ちの多くの皆様のご参加を心よりお待ちしております。
▽日時:2008年1月21日(月) 18:30-21:00 (開場18:10)
▽場所:慶應義塾大学三田キャンパス 北館ホール

まず未成年向け携帯電話フィルタリング原則化について。経緯を整理すると昨年末に民主党による議員立法に呼応し、政府与党でもフィルタリング義務化へ向けた議員立法の機運が高まった。これらの動きの機先を制するかたちで、昨年12月に総務相から携帯電話各社への要請、報道と相成った。
携帯電話向けのフィルタリングサービスは従前から提供されているが、加入率は2割近くと低調である。通信事業者がフィルタリングを行うことは憲法電気通信事業法で定められた通信の秘密と抵触する疑義があるものの、PCと違って端末でのフィルタリングが困難な携帯電話に於いては現実的な問題解決策ではある。加入者が選択的に加入するオプションで、加入率も低かったため、各社のサービス内容が問われることは少なかった。けれども総務相の要請に基づいて原則義務化されるとなると社会的影響は大きく、これまで以上にサービス内容の公正性について責任を問われる。
重要なのは規制の主体を明確にし、フィルタリング対象選定の透明性を担保し、有害コンテンツの定義拡大解釈に歯止めをかけることである。自社でメール等のコミュニケーション・サービスを提供する寡占的携帯電話事業者が、各社で示し合わせて他社サービスの利用に制限を課すことは、総務相の要請があったとしても独占禁止法で規制されているカルテルや優越的地位の濫用に当たる疑義がある。またコンテンツ産業での技術革新や市場競争を阻害する虞がある。従ってフィルタリングの主体は政府や携帯電話事業者ではなく、コンテンツ提供事業者であるべきだ。即ちコンテンツ事業者が自発的に未成年によるアクセスを制限する形式を取れれば、適法にフィルタリング普及を図ることも可能ではないか。
またフィルタリング対象について、出会い系サイト、自殺サイト、家出サイト、学校裏サイトといった犯罪を助長することが明らかな有害コンテンツや、約款で未成年の利用を禁止しているサイトへのアクセスに関して親の承諾を必要とすることには、一定の合理性がある。問題となるのは出会いそのものを目的としていないモバゲータウン等のSNSや、ブログや携帯小説といったCGMサイトの扱いだろう。これらは結果的に未成年との出会いや犯罪に使われる場合があるものの、サイトにソーシャルな要素を持たせることは世界的にみて大きな流れであり、これらを一律に規制することは技術革新を阻害し、携帯コンテンツ産業の健全な成長を妨げる公算が高く、行き過ぎである。またマイノリティに関する情報へのアクセスを一律に制限することは差別を助長するという指摘もある。
次に民主党議員立法の準備を進めているISPへの有害コンテンツ削除義務について、違法コンテンツについては既にプロバイダ責任制限法があり、国外のサーバーに対する法執行なども考えると追加的な法整備による効果は期待し難い。現実的には携帯電話と同様、フィルタリングの普及促進の方が効果が高いと考えられる。しかし携帯電話と異なり固定通信は世帯加入であり、通信事業者が通信内容から利用者が未成年かどうかを識別することは技術的に困難な上、通信の秘密に抵触するため筋が悪い。既に端末にインストールするフィルタリング・ソフトウェアがあり、これの普及を促すことの方が現実的である。国内PC市場は大手数社の寡占となっているので、これらPCにフィルタリング・ソフトウェアをプリインストールすることは難しくない。但し、政府の介入によってフィルタリングの普及を図るのであれば、携帯電話と同様にフィルタリング内容の透明性・公正性はこれまで以上に問われることになる。ホワイトリストとする場合は、PICSなどコンテンツ事業者による自発的な内容表示をベースとし、中立的な第三者機関は表示内容と実際のコンテンツとの整合性のみを監視すべきだろう。またフォルスポジティブに対する紛争解決手続きも整備する必要がある。市場で流通しているフィルタリング製品は、アルゴリズムやデータベースの内容について透明性が低く、普及推進と並行してベンダの説明責任を問うことが重要となるだろう。そもそも家庭内でのPC利用についてユーザー毎のログイン管理を行っている割合も低いと想定されるため、保護者に対する啓発も重要となる。
以上、現時点で僕の頭の中で整理していることをまとめてみた。実は戦前の言論統制も大日本言論報国会を通じた自主規制が中心で、そもそもフィルタリングについて民間主導の自主規制であれば問題ないかというと疑義もある。表現の自由や通信の秘密との兼ね合いについては更に議論を深める必要があろう。ここでは犯罪抑止のために未成年に対するフィルタリングは止むを得ないと仮定し、適法性・公正性を担保し、無制限な検閲に対して歯止めをかけ得る政策手法について検討した。シンポジウムまで少し時間があるので、もっと時間をかけて論点の洗い出しと政策提言の内容を詰めていきたい。