雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

現実的な未成年ゾーニング技術の検討

わたしは子供たちを犯罪を守るための技術の開発と普及が重要であることを認めつつ、現時点で未成年の利用する携帯電話にフィルタリングを原則化することは時期尚早と考える。まず福祉犯のピークは1985年で犯罪件数は横ばい傾向にあり緊急性が薄く、さらに既に実用化されているフィルタリング技術はブラックリストであれホワイトリストであれ政府が使用を推奨するには完成度が低く、弊害が大きいと考えるからである。
ここでは前エントリで挙げた少年保護技術の満たすべき要件の項目に沿って、ブラックリスト方式、ホワイトリスト方式の課題を洗い出し、政府による未成年フィルタリング原則化へ向けて、考えられる改善策を検討する。

青少年を効果的に犯罪から守ること

未成年をコミュニケーション・サイトから閉め出すことによって少年犯罪が減少するかについて充分な実証研究が欠けている。特定の携帯サイトから閉め出したところでコミュニケーション欲求がなくなる訳ではないので、海外のSMSサービスのようなメッセンジャ・サービスや、ネットカフェ経由のネットアクセスなどに代替される可能性も高い。
個人的には未成年をコミュニケーション・サイトから閉め出すよりも、子供同士のコミュニケーションは子供同士に閉じこめて、そういったサイトで子供とコミュニケーションできる大人を厳しく制限した上で、メッセージ内容を第三者が監査した方が有効と考えられる。
加入者の年齢情報を移動通信事業者からコンテンツ事業者に通知する仕組みがあれば、大人の入会を制限したSNSサイトの構築が可能となる。モバゲータウンのように子供から大人まで使うサービスについても、子供と大人の間のコミュニケーションを重点的に制限・監視するだけで、かなり犯罪を抑止できる可能性が高い。
携帯やネットが犯罪に利用される経路や経緯について社会学的に分析し、弊害が小さく効果的な犯罪抑止策を検討すべきである。

競争による技術革新を阻害しないこと

もともと公式サイトは移動通信事業者による厳しい規制によってビジネス機会が限界に近づき、ビジネスの主力は勝手サイトに移りつつある。モバゲータウンをはじめとした勝手サイトが10代の利用者を開拓して伸びていたところでのホワイトリスト方式の導入は、携帯コンテンツ事業への参入障壁を高めることになる。
ホワイトリスト方式を導入する場合も、公式コンテンツとして登録するための要件と手続きを透明化し、制限を緩和すべきである。ブラックリスト方式もポリシー如何で過剰規制となる。特に利用者毎の細かい設定ができない現行方式では安全側に倒す運用となるため、新しいコンセプトのサイトが排除される公算が高い。

技術的に実装可能で費用を抑えられること

ブラックリスト方式は個々の通信に対してディープ・パケット・インスペクションを行ってURLを取り出して膨大なデータベースと照合する必要があり負荷が大きい。ホワイトリスト方式はコンテンツ数が激増しなければ、ブラックリスト方式と比べて負荷が小さいと考えられる。いずれにしてもゲートウェイ・サーバー方式の場合、通信の秘密に抵触する上、利用者増に応じた設備投資が必要となる。
理想的には端末の処理能力が高まっている現状に鑑み、ポリシーは原則として個々のサーバーが発行し、端末側でサーバーから受信したポリシー及び定期的に更新されるシグニチャを使ってフィルタリングを行う方式が、設備投資を抑えつつフィルタリングの柔軟性を実現する上で合理的と考えられる。
しばしばパソコンと違って携帯電話はソフトウェアを後から導入できないため、端末側でのフィルタリングが難しいという意見もあるが、後から追加するのではなくブラウザの機能として搭載すれば良い。既存端末は引き続きゲートウェイで対応する必要があるが、ゲートウェイ・サーバーにかかる追加設備投資は削減できる。

基準が明確で裁量的判断の余地が小さいこと

現状ではフィルタリングで参照されるラベルの判断基準が曖昧である。原則として第三者評価機関がガイドラインを発行し、携帯コンテンツ事業者がガイドラインに基づいて自己格付けを行い、不適切なラベル付けについて受付機関が届け出を受理し、実際に問題があれば携帯コンテンツ事業者に改善勧告を行い、改善勧告に従わない事業者の情報をブラックリストに掲載するようにすれば、事務量とブラックリストを削減でき、公正な運用を担保できると考えられる。

出版物等への規制と齟齬のない制限であること

現状フィルタリング事業者の持つデータベースの内容について、有害図書規制と比べて著しく基準が厳しいという指摘もある。第三者評価機関はガイドラインを作成するに当たって、憲法で保障された表現の自由に充分に配慮したかたちで、有害図書規制など他業界の事例も参考とすべきである。

正当な利活用やリテラシー教育の妨げとならないこと

ブログや検索、コミュニケーション、動画共有サービスなどは、サイトの一部に不適切なコンテンツが含まれていたとしても大半は正当な利活用で、それがリテラシー教育にとって非常に重要な場合も考えられる。フィルタリングの原則化に当たっては、ディープリンクについて個別コンテンツ単位でアクセス制御を実現し、未成年によるサービスの正当な利活用やリテラシー教育の妨げにならないよう充分に配慮すべきである。
親の判断で子供の成熟度に応じてフィルタリングを解除すればよいという考え方もあるが、親がフィルタリングサービスの実情について充分なリテラシーを持っているとは限らない。通常設定でのフィルタリングを厳しくし過ぎることは、親のITリテラシーの低さが子のITリテラシー獲得を制約し、階層を固定化させる懸念がある。

国際的に妥当な制度で海外のサーバーにも適用可能なこと

現行のインターネット・ホットラインセンターは有害コンテンツについてISPへの通知までしかできず、海外にサーバーを置く事業者に対する規制が難しい。窓口機関の法的位置づけを諸外国並みに高め、ブラックリストのフィードなども行うことで、執行能力を高める必要がある。

措置の中立性・透明性が担保され外部から検証可能であること

現在のフィルタリング・データベースは内容が著作権で守られ公表されておらず、適切に運用されているかどうか外部から監査することができない。政府がフィルタリングの利用を推奨するに当たっては、憲法で保障された法の下の平等表現の自由、通信の秘密、検閲の禁止を充分に尊重し、ブラックリストの中立かつ適切な管理を担保すべく、外部から検証できるようにすべきである。
そのためにはブラックリストの内容を開示し、内容に対する説明責任を負わせ、更新手続きの透明化を図り、フォルスポジティブについて異議申し立てできる仕組みを用意すべきである。フィルタリングの内容を私企業の知的財産として秘匿し、説明責任を果たしていないデータベースの利用については、政府として推奨すべきではない。