雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

機会はいつもタダ働きからやってきた

自己啓発本は大嫌いで自分で買うことはないのだが、小飼弾さんの書評によると『「伝説の社員」になれ! 成功する5%になる秘密とセオリー』にはいいことも書いてあるようだ。僕も振り返ると授業料を自覚してタダ働きしてきたことが糧となっている。

「安く売る」という点に関して言えば、オープンソースに参加するというのはある意味その極北ではないか。何しろ無料、それそのものは一銭にもならないのだ。それでは、「自分は安く売る」とは一体どういう意味なのだろうか。差額を授業料にする、ということである。

僕は大学が決まってすぐ、個人事業主としてITライターや外資半導体会社からの受託調査、通研での研究補助、コンビニECサイトの再構築*1といった仕事にありついたが、これらの仕事は予備校時代に当時、秋葉原にあるベンダのショールームに通い詰めて無償で機器のメンテナンスやデモを手伝う間に培った人脈が契機となっている。
大学に入って2年近く様々な仕事を請けたが、個人事業主でいる限りは背伸びしつつ詳しくない相手から仕事を取らなければならないことの限界を感じて、給料が下がること承知で前の会社に就職した。大学2年の終わり頃のことである。会社に入って素晴らしいのは、苦手な仕事も引き受ける機会があることだ。先輩たちの見よう見まねで頑張って、分からない時には教えてもらう。個人事業主では苦手な仕事を請けるなんてリスクを取ることは難しいし、それ以前に相手から頼まれない。
入社2年目に同世代の経営するベンチャーへの転職を試みるも慰留され、週1日だけ無給で手伝う許可をもらい、空いている部屋に居候した。同世代のワイガヤで深夜12時から始まった役員会で決まったことが翌朝にはサービスに組み込まれ、翌々日の事業計画に反映されているというスピード感を味わった。その会社は僕がジョインして1年も経たず大手ポータルに買収されてしまったが、その時の仲間とは今も繋がっている。
今の会社との縁も10年ちょっと前に、汎用機とAIXで動くECサイトをPCベースで再構築して以来だが、年に何度か酒をご馳走になりつつ相談に乗っているうち、いくつかシリアスな相談を受けて最初は会社で仕事を請け、外部からのコンサルテーションに限界を感じて転職を申し出た。そう考えてみると、つくづく自分って人生はタダ働きの取り持つ縁で動いてきたのだなぁと愕然とするのである。
自分は別に下心があってやった訳じゃなく、その時々で知的好奇心を満たし、社会と繋がりを深めることのできる選択肢を選んできた。別に元を取るつもりはさらさらなくて、単にそれが大事なことで、やりきること自体で満足できたからそうしてきたのであって、最初からリターンを期待して授業料と割り切って自分を安く売ったところでモトを取れるかというと甚だ怪しい。
小飼弾さんの勧めるオープンソース・プロジェクトへの参加は、比較的リターンを期待できる投資ではある。仕事としてのプログラミングの大半は非常に狭い領域で、限られた利用者向けの仕事とならざるを得ない。世界中で使われる汎用ソフトウェアの開発に携わる機会は限られているし、アサインされれば自分も下手だろうが上手かろうがコードを書かなきゃならない。尊敬できるプログラマの先輩と出会える可能性も限られる。
一方でオープンソース・プロジェクトに首を突っ込めば、最初から国際色豊かなチームで、一流のプログラマ達のコードを読み、メーリングリストの流れを追っかけるなど堂々と正統的周辺参加ができるのだ。井の中の蛙となることなく、自分のペースに合わせて最高の環境で勉強できる。追っかけるだけで終わるか、メーリングリストでの議論に参加するか、パッチを投稿するか、コミッターとなるか等、どこまでプロジェクトにコミットできるかは能力と余裕次第にはなるが、参加しようと努力すれば少なくとも視野が広がるし、業界内で緩やかな紐帯をつくることもできる。自分の技術者としての人生を左右する師匠くらい、できるだけ広い母集合から選びたいではないか。
という訳でボランタリーな活動って意外と後から機会を生むことが多いのは確かだが、こういうのって志が志で返ってくるという話であって、最初からリターン狙いでどこに授業料を払おうにも、短期的にはリターンが返ってこずに失望したり、目が曇って体よく使われてしまうのではないかと余計な心配をしてしまう。いみじくもトルストイは「幸福な家庭はどれも似たものだが、不幸な家庭はいずれもそれぞれに不幸なものである」と書いたが、成功者の多くが何らかのかたちでボランタリーな活動を通じて機会を得ていたとしても、ボランタリーな活動をしたから成功するとは限らないんじゃないかな。そう割り切ってでも賭けてみるほど価値を感じられるならば、汗を流すべきだ。

*1:最初は調査の仕事として請けたのだが、いろいろ提案していたら「じゃあお前がつくってみろ」という話になった。RFP作成からベンダ選定、各社との交渉、ベンダ管理や運用保守体制の構築などユーザー企業サイドのコンサルタントとして一通り以上のことをやった