雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

次のボトルネックは水

今日の日経新聞朝刊にJTフーズ謝罪広告が出ていた。毒入り餃子事件を受けて食糧自給率を高めるべきという議論もあるが反対だ。日本にだってミートホープのように腐った企業はあるし、船場吉兆赤福といった名門でさえ偽装をしていた訳で、日本だから安全ということはない。中毒のヤバさ加減では毒入り餃子が上だが、日本だって昔は森永ヒ素ミルク事件のようなこともあった。
実のところ日本で食糧自給率を上げようとすると利水が課題になる。日本人は昔は水と安全が無料だと思っていたし、日本が水の豊かな国だと勘違いしているが、実のところ我が国が中東の砂漠国並みに仮想水貿易で輸入超過となっていることは、あまり知られていない。

ネットでは中国叩きが横行している。私も心情的にはそう思ってしまうのだが、今や日本の社会は中国抜きには成り立たない。また、今は中国製品を粗悪品と笑っているが、今後その品質を急速に向上させるだろう。いや既にそうなっている。今回のケースも生産工程では薬品混入が難しかったことが推測される。
(略)
中国製品の問題はこれからのほうが深刻である。なんとかしてわが国の食料自給率を上げないと大変なことになると思う。

仮想水貿易の輸入超過ってエビアンとかボルビックとかそういう話じゃなくて、輸入に頼る穀物や畜産物の生産にかかる膨大な水需要を積み上げると、という話ね。生活用水はそれほど増えていないし、工業用水の再利用による節約は非常に進んでいるが水利用の7割弱は農業用水なのだ。だから日本で食糧を増産しようとすると、水が足りなくなることは目に見えている。そもそも土地だって足りないし、人口減のご時世で労働力も覚束ない訳だが。
中国の砂漠化や急激な経済成長、格差と政治的混乱などを鑑みるに、いつまで日本に食糧を売ってくれるかを心配した方が良い。できればオーストラリアとか、他にも食物輸入先を開拓する等のリスク管理が必要だろう。米国でバイオ燃料が流行りつつあるが、これも日本の食糧安全保障にとって重大なリスクとなる。
バイオ燃料は確かに中東の原油に頼らずになる点で米国のエネルギー安全保障政策として有効ではある。背後で穀物メジャーの狙いはもうひとつあって、それは輸出食料の騰貴を期待できることだ。食料輸出では一般に国内需要を差し引いた余剰分について取引されるのだが、バイオ燃料の普及によって穀物の定常的な国内消費量が増えると、輸出余力は生産量以上に大きく変動することになる。そうすれば価格のボラティリティが高まり、今の原油のように投機資金も流れ込むことで、不作時には実需以上の価格騰貴が懸念される。
このように日本が今のように食糧を安定的に輸入できるかというと非常に心許ないが、水資源や人口減、土地利用などを考えると、直情的に食糧自給率を上げよといっても詮無いというか、展望なき農家に対するバラマキに政治利用されるだけとなりそうな気がする。
むしろ世界的な食糧増産に当たって水や砂漠化がボトルネックとなることを見越すならば、日本が高い技術力を持つ海水淡水化プラントや水輸送船、砂漠緑化技術を世界中の途上国に提供し、中東・アジア地域の農業開発とバーターで安定的な食糧供給を受けるスキームとかつくれないものか。
そういった諸々の国際事情を踏まえると、貧富の差が激しく国土の荒廃が進む中国をはじめとしたアジア諸国とも、輸入を拒むのではなく戦略的に踏み込んだ関係を築き、総合的に世界の食糧需給を改善しつつ品質改善に努めた方が、困難はあれど結果的に賢いのではないかとも考えるのである。