雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

情より速く

確かに若者も気が漫ろになっている気はするけど、それって時代の空気を読んでるからじゃないかな。ずーっと会社を信じて汗水流して働いてきた団塊世代をお荷物扱いでリストラし、バブルに浮かれて適当に採ったバブル入社世代の給料が高くなりかかった頃にナンチャッテ成果主義で人件費を抑え、またちょっと景気が良くなったら浮かれてバブル顔負けの採用合戦をやって、そろそろ景気が冷え込むし採用を絞りこんで、十年後くらいに当時の無計画な採用を棚に上げて「これだからゆとり世代は」とかいうんじゃね。自分達もいずれ裏切られるかもって不安になれば、早くから自衛しようとするのも無理はない。

以下、エントリの論旨とは大分ずれた話になるけど、即戦力や即業績というのって、必ずしも企業側だけのメンタリティじゃないような気がする。学生の側だって案外そうなんじゃないのか?すぐに戦力になりたい、すぐに業績を出したい、すぐに認められたい。そのどれもが無理だというなら、「俺は仕事を辞めるぞジョジョー!」と言い出したり、本当に辞めてみたり。

こんな見え透いた行き当たりばったりレミングス経営どうやって信じろと。経営者が新卒不信となって教育投資を絞った以上に、若者は会社不信で入社半年もすればリクナビNEXTとかに登録し、貸し借りを反故にされかねない会社での下積みなんかすっ飛ばして、次の面接でネタにできるスキルや業績を手っ取り早くつくろうとするんだよ。その気負いが空回りしてるとイタいというか、採用側からは何処へ行ってもモノにならない「青い鳥症候群」に見えちゃうんだけど。ちょっと景気が良くなったから慌てて新卒採用を再開したって、年功序列・終身雇用時代にあった労使の共同幻想共依存は、もう壊れてしまったんだ。
実は学級崩壊と職場崩壊って非常によく似てて、ネットで情報の非対称性が急激に解消する過程で、従来の組織を支えていた教師や上司の権威が崩壊したんだよね。で、上だけがそれに気づかないか、気付いても手を打てない。やけっぱちで掲示板や携帯メールといったツールに対して被害者意識を持ってフィルタリングする組織もあるが、その手の不満って押さえ込もうとすればするほど自宅やネカフェから2ch掲示板への書き込みとか外に漏れる訳で、最近ようやく社内SNSを活性化してガス抜きした方が恥にならないと気付いた会社も多いとか。
だからid:p_shirokumaの企業も学生もどっちもどっちという指摘は全くご指摘の通りで、結局のところ相互不信で互いの長期的成長に賭け難くなった。若手は自分の会社が中長期的に伸びて自分のことを報いてくれると信じられないし、経営者は若手が中長期的に伸びて辞めずに会社に貢献してくれると信じられない。
成熟経済にあって、この相互不信は確率論的に正しいが、同時に自己充足的予言としての性質を持つところが厄介だ。つまり確率的には若手も会社も裏切られる可能性が高いけれども、その相互不信こそ互いの裏切りの可能性を更に高めてしまうのである。裏を返せばうまく従業員の士気を高められれば、これまで以上に競合他社と差をつけ易い経営環境にあるともいえる。特に成熟産業で従前のやり方を踏襲していれば、若手の士気が大きく下がっているはずだから。
若手の士気を維持する方法って結局『虚妄の成果主義』が書いているように、報酬ではなく仕事で報いることなんだよね。業容を拡大して魅力的なポストを増やせるのが理想だが、それが難しくても管理職としての適性が低い人材は次々と部下を持たないスタッフ職に転換していくことで優秀な若手を仕事で報いる環境ってつくれるんじゃないかな。
これまでの日本型成果主義で何が駄目だったかというと、管理職に部下の給与に差をつける裁量を与えた一方で、年功序列と同じセンスで管理職を任用してしまったことだ。年功序列ならば上司と反りが合わなくても給与は大して変わらず、嫌でも2年くらい我慢すれば代わったのが、成果主義では上司による評価が部下の給与に大きく影響する。だから従前よりも組織運営や評価について、公平さと説明責任を強く求められる。特に給与を下げる場合は動揺する部下に対するフォローが非常に重要となる。
日本企業の管理職の多くは、これまでそういった能力を問われなかったし、鍛えられていなかった。特に賃金を触る成果主義では年功序列と比べて頭が腐っていると一瞬で組織の士気が乱れるのに、古き良き時代の微温的なセンスで管理職同士が庇い合って事態を悪化させてしまった。ひとの管理って熟練よりも適性とか人望が重要だから、ラインマネージャでい続けるためのハードルを高くして空きポストを確保し、若手にもチャンスを与えればよいのである。真面目で優秀な若手であれば、さほど給与水準を上げなくても授業料と思って腕を奮うのではないか。
そんなことをやった途端、成果を出した優秀な若手から育った途端に会社を踏み台に競合他社へと転職してしまうんじゃないかという懸念もあるだろう。組織に魅力があれば引き留めようもあるだろうし、組織がうまく回っていれば2:8の法則で中堅層から新たなリーダーが出てくるはずだ。突き詰めると優秀な人材が育って卒業してしまうことは仕方ないではないか。優秀な人材を塩漬けにする権利など、どの会社にもないのだ。往年のIBMやDECがそうであったように、スピンオフカンパニーとして優秀な人材を次々と輩出した企業は、社会から尊敬されて業界への影響力を保ち続け、OBネットワークも活きているではないか。
今のところ多くの日本企業の経営はそうなっていないから、腕に覚えのある若手は世界に飛び出すとか、せめて国内でも外資系に行くとか、ベンチャーに行くとか、そういう話になりがちだし、僕自身は25歳でベンチャーから外資系に転職した*1んだけど、自分はたまたまラッキーだったけどリスクは大きいよね。ぶっちゃけ飛び込む先の仕事と上司にすごく左右される。あと外資ってライン人事で人事部の権限が弱く、中長期的な能力開発とか人生設計に対してお節介を焼いてくれないケースが多い。できれば社外で世間を知ってて自分のことを買って親身の助言をくれるメンターを持つとよい。
転職する気がなくても定期的にエージェントに会うという人もいるけど、彼らは彼らで人を他社に紹介したい訳で、口調は親身でも信用できるとは限らない。業界の景気とか引っ張りだこの人材像、自分の市場価値を教えてもらって定期的に自分の価値を棚卸しするには使える場合もある。そうやって人材紹介業が探しているような流動性のあるスキルって、結局のところコモディティじゃねーの、自分の目指している方向じゃないよねって反発はあるけど。
正直いって自分は会社組織上の部下を持ったことがないので、自分が他人を育てられるかどうかは自信がない。今のような極楽蜻蛉のまま、給料だけ増えてくれるに超したことはないと虫のいいことを考えている。ひとの管理は向いてなさそうだし、自分のような部下を持ったら面倒だろうなという自覚もある。うーん、上司にも部下にも向かないって会社員失格じゃん、みたいな。とはいえプロジェクト・リードとして多くの関係者を組織したことは少なからずあるし、これまで数多くの上司に仕えてきた経験から、自戒したいこと*2、見習いたいことは諸々ある。
特に技術者上がりの管理職にありがちな話だが、自分のプライドを守るために部下よりも何事に於いても詳しい必要はない。部下があなたより詳しい場合は決して背伸びせず、それを頼ればいいのだ。昇級予算が限られている以上、無形の授業料をどれだけ感じてもらえるかが重要だ。それは場数を踏ませるとか、自分の能力開発に結びついていると実感できる機会を意識して創り、褒めるといいかも知れない。権限を振りかざして頭ごなしに命令するのではなく、目標と状況認識を共有して自律的な提案と行動を促されると逆らえない。しばしば組織から理不尽な指示が下ることもあるが、そのまま部下に指示するのではなく、ぶっちゃけ会社の抱えている矛盾を本音で共有して、共に闘い、こっそり手の抜き方を考えよう。そういう上司に、私はなりたい。

*1:考えてみると年齢的には第二新卒だが、在学中20歳の終わり頃に入社したので足掛け4年半はいた。

*2:念のためフォローをしておくと、今の会社に入ってからは妙な上司に当たったことはない。たまたまラッキーだったこともあるし、自分から希望しての入社や異動ばかりだったので、一緒にやっていける上司を自分で選んだし、会社全体でみても部下の会社や組織に対する満足度が高くなければラインマネージャで居続けられない仕組みが機能しているようだ。