ネット動画コンテンツをどう増やすか
日本ではコンテンツのシンジケーション市場が発達しなかった。地上波のカバレッジが悪くCATVが発達し製作会社の独立性が高い米国に対して、日本では在京キー局を中心とした地上波ネットワークが製作から配信まで担っているからだ。実際に番組を製作している製作会社だけではなく、キー局やその子会社もコンテンツの著作権を握っているので、放送コンテンツが死蔵され、なかなかネットに出てこないといわれてきた。そこで総務省がコンテンツ市場を創ったらどうかと考えているようだが、一筋縄にはいきそうもない。
というのもニュースやアニメは既にネットに出始めているし、映画もスポーツもネットで流れているし、いまのところ流れていないバラエティ番組とかニュースショーとかネットで見たいか?というのもあるし、もう少し経済学的に考えた時に、独占利潤を取れる放送の機会費用に見合うコンテンツ利用料を支払えるプレーヤーって、ネット配信とか競争利潤しか取れない業界じゃ誰もいないだろうな、と。3000万台を超える普及を誇るBSデジタルでさえ収益的に厳しい現状を鑑みて、今年発売のテレビから片っ端からacTVila対応になったり、WiiがIPTV機能を持ったら地上波のような商売になるかというと、やはり従来型の広告モデルでは難しい気がするし。
昔は僕もネットにコンテンツを出さないテレビ局は時代に逆行しているとか思っていたが、改めて再利用できるかと見直してみると、既に再利用されているコンテンツを除くとテレビという仕掛けを前提にコンテンツそのものが組み立てられていることに気付く。それをただネットに持ってくるとして、まあロケフリとかタイムマシン的な仕掛けはそれなりにニーズがあるだろうけれども、それってテレビをネットでみているだけで、必ずしもネットに合ったコンテンツじゃないし。
ちょうど今日Google特集をやってたテレ朝の「素敵な宇宙船地球号」とか、テレ東の「ガイアの夜明け」、NHKスペシャルとかってネットで言及されることも多いし、後からみたくなることは結構ある。知りたいのは番組の内容であって鑑賞したい訳じゃないから別にHD画質じゃなくてiTMSで300円とか500円くらいで売っていれば何となく買っちゃうんじゃないかと思うし、今のところそういうことをやっていないのって著作権法が云々という問題じゃなくて、単に儲かりそうもないとか、考えてなかったとか、そういうことじゃないかな。
NHKを皮切りに流しやすいドキュメンタリーからアーカイブスで流れるようになって、ドキュメンタリー番組の社会的影響力を高めるとか、小さくても追加収入を得るとか、或いは視聴率以外に絶対指標として番組に対するフィードバックを得るとか、そういった理由のためにiTMSとかで売り始めるというのは、かなり現実的なシナリオじゃないだろうか。この世界って昔から、誰かしらリスクを取って成功すれば軒並み参入してくるものだ。ビデオ販売も、DVDの価格設定見直しも、みんなそう。
制度をいじるべきか業界自主努力に任せるべきかって難しい問題で、問題設定をどこに置くかがある。テレビのコンテンツがなきゃブロードバンドのキラーアプリがないかというと、今やそんなことはない。スポーツとか地上放送がカバーできないコンテンツがネットで流れ始めているし、ニコニコ動画とかでは明らかに新しい創造の波が生まれている。初音ミクをきっかけに、MikuMikuDanceみたいな諸々のツールは、ネットのかたちに応じたロングテール向け製作ツールの嚆矢となるかも知れない。SecondLifeは騒がれすぎたので持ち上げたくはないが、映像製作やツール交換について、プロシューマ的なツールとしてひとつの方向性ではあるだろう。だからそろそろ、テレビを引き込まなくたって、ネットはネットで自律的に、ネットの特徴に合ったコンテンツ・エコシステムはできるだろう。
問題はむしろテレビの事業モデルがいつまで持つのかと、これだけの金額がストックにならないコンテンツ製作に流れていることが、文化政策として如何なものかということかも知れない。大半のバラエティ番組は、日本でその瞬間消費されるためだけに製作されている訳だ。いささか転倒した問題設定にはなるが、仮に再利用できるコンテンツをつくるインセンティブが生まれれば、もうちょっと中身のあるコンテンツが増えるのではないか。ところで、それをつくるのはテレビ局の製作会社であるべきなのだろうか。映画界からdisられても、テレビ文化は育った。テレビからdisられたってネットは自分から時代を切り開いた方が未来があるのではないか。
iTMSで米国の人気ドラマが買えて、PodcastでCNNやNYTimesをダウンロードできれば、ニュースはそれでいいじゃないか、という気もする。チベットの件にしても月並みな日本のニュースをみるより、Google Newsとかtwitterでの言及を押さえつつ、BBCの中継に中国語コメントで突っ込みが入っているニコニコ動画をみた方が、ずっと生々しい。テリー伊藤の「ネットで頭がバカになる!」発言は図らずも、今やテレビ番組の企画がネットに依存していることを浮き彫りにした。少なくとも僕らアーリーアダプタは、ネットで頭がバカになった?プロデューサの企画した番組をみるのに時間を費やすよりは、彼らと同じくらいネットにどっぷり漬かった生活をした方がマシじゃないか。もちろん「想像力」「妄想力」を養うべく、時には脳への刺激を遮断することも重要だが。
そして、日本人に一番欠けているのは「想像力」「妄想力」で、これこそを養うべきだと強調した。理由としては、テレビ番組の企画や企業の企画書を見ると、どれもみな内容が似通ったものばかりだからだそうだ。
「みんなインターネットから引っぱってきて、映像を持ってきて、全部インターネットのパクリなんですよ。インターネットと違うところで文化は生まれてくる」