雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

高市法案の問題点

仕事でOsloにきた。ここ数日フォローしていなかったら,すっかりblogはネット規制の問題で盛り上がっている。高市私案は以前から気になっていたが,これほど問題の多い法案が十分な議論を経ずに今国会で提出されることがあれば,内閣提出法案とのバランスを著しく欠く。そもそも自民党の党内手続きは内閣提出法案を吟味することを念頭に置いた制度設計で,所管官庁が懸念を表明するような法案を詰めて議員立法とすることは想定していないのではないか。与党が野党に乗せられて,政権担当能力を疑われかねないところを真似てどうするのか。

自民党民主党で法制化に向けた動きがあります
法制化の議論には何度か出席して意見を述べていますが、いま聞いている内容の法案が通った場合、議論がかなり混乱してしまうことは避けられないでしょう。総務省はあくまで民間側の自主的な取り組みを前提に考えています。プロバイダー責任制限法(ISP法)も、プロバイダーの責任を「制限」する内容であり、基本的に規制は最小限というのが方針です。行政機関なので政策決定に対して基本的には意見を言える立場にありませんが、最初から法規制で対応すべきという法案とは、スタンスがまったく異なります。
個人的には「拙速な規制は100年の禍根を残す」というスタンスです。法規制の前にやるべきことがあるはずで、それゆえ総務相の要請という手段を取ったのです。行政側は、民間の取り組みの手がかりを与えるに過ぎないと考えています。

それに今回の法案を本当に党が起草したのだろうか。よくあることだが実際は官僚が起草しているのではないか。中長期的に党の調査・立法能力を高めることの重要性は論を俟たないが,実際には官僚が起草した法案を,本来のプロセスを迂回すべく議員立法の形式を採ることがあれば大きな問題だ。一刻も早く官僚の政治家との接触制限を実施すべきではないか。
高市法案の筋が悪い点はいくつもあるが,

  • ISP・携帯キャリアへの行政処分を通じたサイトの間接支配
  • 広すぎて不明瞭な有害の定義と,特別行政委員会の設置

の2点が特に気になる。
有害情報が削除されれば大人もみれなくなるので実質的な検閲だし,その基準は国会でも裁判所ではなく特別行政委員会である青少年健全育成推進委員会が決める。この委員会は内閣府青少年担当にぶら下がるが,ここは警察庁の出向ポストだから,実質的には警察が下書きした原案を委員がレビューして,引っかかった表現だけ直すかたちとなる。形式論をすっ飛ばせば「概ね警察が決めた基準でネットコンテンツを検閲します,手を下すのはISPや携帯キャリアだから憲法違反ではありません」ということだ。
法案での有害情報の定義が極めて曖昧で規制に歯止めがかからず,実際の基準である青少年健全育成推進委員会規則が国会での審議を経ないことも大きな問題だ。その上,どれほど精緻な基準を決めたところで,一定の品質を維持して運営することは極めて難しい。ISPや携帯キャリアは責任論を恐れて必要以上に萎縮した運用を行い,過剰な干渉や監視コスト増を嫌ったコンテンツ事業者も優秀な技術者も,日本からは逃げ出してしまう可能性がある。また,適法CGMサイトに有害コミュニケーションが隠語で紛れ込み,ゾーニングの観点では却って後退する可能性もある。
三者機関が防波堤になるという考えは甘い。適正に管理された大手SNSであっても,未成年利用者がSNSに起因するか否かに関わらず犯罪被害に遭うケースは今後も間違いなく出るし,そのタイミングをとらえて因果関係を曖昧にしたまま警察からマスコミにリークすれば「誰がこのSNSを子供が使えるようにしたのか」という責任論が沸騰し,第三者機関など簡単に吹っ飛ぶだろう。少なくとも携帯キャリアが第三者機関の勧告に従わない口実にはなる。
とはいえ携帯を使った少年犯罪事案が増えていることに対し,何らかの制度的手当が必要なのは確かだ。有害情報削除の前にできることは山ほどあり,法的安定性の高い制度を構築することは可能である。
法的安定性が高く,検閲には当たらない制度とする上で,原則としては

  • 違法情報への対策を強化する
  • ISP・携帯キャリアに対しては行政処分ではなく責任制限で安全対策強化に誘導する
  • 有害情報は定義せず,民間自主規制の実効性を高めつつ,事故再発防止に重点を置く
  • 特別行政委員会はつくらず,ADRや裁判所を通じ迅速かつ透明性の高い問題解決を図る

といったことが考えられる。具体策としては

  • 違法情報の掲載を幇助と位置づけ,プロバイダ責任制限法を刑事に拡大し,違法情報のnotice and takedownを強化する
  • 子供を有害コンテンツから守る責任が保護者にあるという観点に立ち,保護者の選択できる技術的防止措置の拡充を図る
  • 猥褻・残虐コンテンツは映画や有害図書規制等と基準を揃え,セルフラベル普及とフィルタリング品質向上を図る
  • 自殺・薬物・家出の誘引やネットいじめは,外形規定による削除ではなく,問題解決の迅速化と再発防止に重点を置く
    • 事案に基づいてコミュニティ・CGMサイトの安全基準を策定する
    • サイトの被害履歴情報について第三者ラベルを発行し,保護者の意思に基づいて過去に事故の起こったサイトの閲覧を制限できるようにする
    • ネットいじめの相談窓口を拡充し,サイト管理者による仲裁および仲裁受け入れのガイドラインをつくる
  • 窓口機関による違法情報の削除・閲覧防止措置について簡素化・迅速化を図る

といった内容であれば,現実的かつ実効性を担保できるのではないか。

まず「青少年有害情報」の定義が広範囲に及び、「〜を誘発するもの」とか「〜おそれがあるもの」というように「青少年健全育成推進委員会」の裁量によってどうにでも解釈できる曖昧な表現が多い。
もっとも問題なのは、第9・10条の行政処分の規定である。