雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

やっぱり有害コンテンツを規制するのはまずい

奥村弁護士が法案の問題点について指摘している。内閣部会案では合法有害の境界がはっきりしないし、ISPにかぶせる責任が過大だよね。意図的に萎縮効果を狙っているのだろうか。それだけならまだいいが、ISPを縛るってことはその気になれば北欧のように、いずれ有害コンテンツの閲覧を規制することもできる訳で、統治としては実に効率的。

ところで2条2項各号の「有害情報」には、情報自体が必ずしも違法ではないものも含まれていて、違法でない場合、発信者は処罰されないのに、媒介者は命令違反罪で処罰されるということになります。合法情報なのに。
お気の毒というか、納得できないでしょうね。

法制局の手が入った段階で、憲法違反などの問題は技術的に回避されるんだろうけれども、重要なのは制度にせよ組織にせよ、いちど出来てしまえば境界的な事例がいろいろ出てきて、権限なり組織を拡大する方向へ動きがちだということだ。例えば最近Winnyの二次放流についても規制され始めたけれども、Winnyによるプライベート写真流出などの事案について、被害者の人権を保護する立場から、児童ポルノに限らず網をかけよう、という立論がこれから出てくるかも知れないし、それなりの合理性はある気がする。重要なことは、保護法益をどこに置くかを明確にすることだ。欧州のように人権に置くのは線引きとして比較的明快だが、青少年健全育成となると漠然として広すぎ非常に危険である。
何せ猥褻コンテンツや残虐コンテンツをみることで、青少年が不健全に育成されるという実証研究はないのである。科学的根拠が不要なら、何だって「青少年の非行を著しく誘発するもの」として規制できてしまう。カッコいい正義のヒーローものがいじめや残虐性を助長するという実証研究は出始めているし、米国では12歳の少年がDeath Noteに名前を書いただけでテロリスト扱いで逮捕されたし、その気になれば戦隊モノもDeath Noteも規制できるのかも知れない。例によって青少年健全育成推進委員会規則はふんわり書かれるだろうから、事件が起こるたびに国内ISPは当局の意図を斟酌し、危なっかしいCGMは次々と海外に逃避し、隠語で健全コンテンツに混ざりこみ、これまで以上に取り締まりは難しくなるだろう。一方で参加者数の割に犯罪事案が決して多いとはいえない多くのコミュニティ・サイトが厳しく規制されて萎縮してしまう。
そもそも有害コンテンツを規定することの保護法益が何だか、はっきりしない。例えば児童も簡単に閲覧できるページに猥褻コンテンツ等を置くことは、公然猥褻などで引っ掛けて違法コンテンツとして扱い、違法コンテンツに対するnotice and takedownを強化する分には保護法益も明確で、判例も数多く、問題が小さいと考える。違法コンテンツの取り締まりについて、ISPやサイト管理者に今よりも重い義務を課す一方で、プロバイダ責任制限法を刑事にも拡張して免責基準を明確化することは難しくない。一方で、コミュニティサイト上でのコミュニケーションが、何をどういうかたちで助長するかは様々なケースがあり、先験的に有害コンテンツとラベル付けするよりは、事案発生後の再発防止をどうするか考えた方がいい。ネットいじめに至っては基本的に本人同士の問題で外形的に定義しようにも無理があるので、サイト管理者や保護者・関係者による仲裁ルールをどうつくるかが重要だ。
内閣部会案が法技術的に違憲か合憲かといった各論に迷い込む以前に、何のためにこんな法律をつくるのか、つくったところで適正に運用できるのか、立法趣旨から外れて過剰な萎縮効果を齎さないか、他に弊害の小さな方法がないのか、いまいちど引いた視点から全体を俯瞰する必要があるだろう。