雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

児ポPTに呼ばれてブロッキングについてレクしたよ

いきなりブロッキング児ポ法改正に盛り込まれることはなかったけど、調査することにはなったみたい。高市早苗先生からご招待いただき、1週間ちょっとかけて慌てて世界のブロッキング事情を調べてエントリも書いたけど、さすがに5分で全てを語り切ることはできなかったし、せっかく整理したのでレク内容+αを改めてエントリにまとめておく。個人的な意見はさておき、僕は事業者の専門家として呼ばれた立場だから、先方の求めに応じて淡々と説明したよ。ともかくこの分野は日本語の文献とか皆無なので、ネットで教えを乞うたりもしながら分かる範囲でまとめてみた。

このほか、法案の付則で、国の今後の課題として、(1)児童ポルノを描写したアニメ、CG(コンピューターグラフィックス)などに関する実態調査と研究(2)インターネット上の児童ポルノサイトに、利用者がアクセスできないようにする「ブロッキング」の研究を盛り込むことでも一致した。

日本でブロッキングの専門家って聞いたことがないし、うちの会社がブロッキングやってる訳じゃないし、短い時間でヒアリングを重ねつつネットで調べただけなので、間違いがあるかも知れないけど許してね。把握している限りでISPによるブロッキングには大きくふたつのやり方があって、DNSブロッキングと、BGPを使った問題ホストへのアクセスの検閲サーバーへの誘導だ。前者は北欧とか、後者はパキスタンや中国がやっている。ブロッキングをやっている国としては他にもイギリス、ドイツ、中東諸国、シンガポール、オーストラリアとかもあるけど、各国の方式を十分に調べ切れてはいない。
まずDNSブロッキングとは問題あるコンテンツを提供するサーバーを、ホスト名単位でDNSというネットの電話帳から取り除く方式だ。利点はISPの負担が小さく、通信の秘密を侵さないこと。問題はサーバー単位のブロッキングなので、1つでも児童ポルノ画像が含まれているサーバー上のコンテンツは、問題ないものも含めて全て閲覧不能にしてしまう点だ。児童ポルノ画像等に限れば、被害児童の人権が児童ポルノ頒布犯の表現の自由なんかよりずっと重要だけど、とばっちりを受ける他の利用者のコンテンツに関して、表現の自由や利用の公平に反している可能性が高い。北欧でもこの辺が問題になっていて、次に述べる検閲サーバーへの誘導も検討されているみたい。細かいところで自前のDNSサーバーを立てたり、IPアドレスを直打ちすると問題コンテンツがみえてしまうって問題もあるけれども、そういった努力をしていること自体が、児童ポルノ蒐集の証拠となるし、自前のDNSサーバーについては指定DNSサーバー以外に対しての名前解決要求をブロックする手もあり、大きな問題ではないだろう。
次に検閲サーバーを使った方式だけど、これは問題コンテンツを含むサーバーに対して名前解決を提供しないのではなく、BGPというISP間経路制御プロトコルをつかって政府の検閲サーバーに要求を集約し、個別URLでフィルタリングをかけるという方法だ。中国やパキスタンが既にやっているし、DNSブロッキング誤爆が問題視されているフィンランドでも注目されているらしい。これを日本でやろうとすると、まず通信の秘密との兼ね合いがある。昭和48年コメンタール以降の電気通信業法に於ける通信の秘密の解釈では明らかに抵触するので、昭和38年国会答弁のところまで解釈を巻き戻しするなど整理が必要となる。また、URLフィルタリングだと携帯電話のブラックリスト方式と同様の問題を抱えていて、特にPCの場合はAjaxのようにURLが変わらないまま画面遷移するアプリケーションとか、ブログ、CGMへの対応にコストがかかる。
そもそもインターネットの設計段階では検閲とか想定されておらず、かなりアクロバティックなことをやっているせいで、ネット全体を不安定にしてしまうという問題がある。2月24日に世界中でYoutubeが数十分間止まったんだけど、これはパキスタン政府がYoutube上の特定の動画に対して、デモを助長するとか文句を付けてパキスタンテレコムにブロッキング措置を命じた件で、パキスタン国内での検閲のための経路制御情報がオペチョンでネット全体に漏れて、世界中でYoutubeに繋がらない状況をつくってしまったという顛末だった。BGP4の脆弱性は9.11以降テロ対策の文脈で論じられてきたけれども、もう6年以上経って直らないんだから、これからも簡単には直らないだろう。
あと、中国やパキスタンのような開発独裁国では電話会社とISPは一体で片手で数えられる数だけれども、日本はNTT法を放ったらかしていたせいでISPだけで数千社もあって、経路制御で検閲サーバーに要求を集中させるなんて、運用レベルで本当に可能なのか、個人的には悲観的な見通しを持っている。ブロッキングのためには問題URLをISPにフィードする必要があるが、プロバイダ全てに対して適切な対応を指示で切るか、そもそも無数のISPにセンシティブなブロッキングリストをバラまくべきか、慎重な判断を要する。
ブロッキング児童ポルノ対策として本当に成果を上げているのかについて、信頼できる数字は入手できていない。フィンランドで今年2月、Lapsiporno.infoというブロッキングに反対して、ブロッキングを批判しているサイトまでブロッキングされていることについて国会で緑の党が問題にした。諸外国で問題となっている論点に関しては、後から制度をつくる日本としては十分に勉強する必要があるだろう。ちなみにLapsiporno.infoのリストには日本のISPホスティングサービスも含まれており、リストに入っているISPフィンランド警察からコンタクトがあったか問い合わせたところ、ブロッキングの対象となっていることは承知しているが、どのコンテンツが問題となっているかまでは知らないし、特に連絡もない。ブロッキングされていることに対する苦情も特にないため、放っているという説明をいただいた。各国のブロッキング実態について、役人はなかなか自分にとって都合の悪いデータを出さないだろうけれども、能書き通りに機能し、適正に運用されているかに関しては、ちゃんと調べた方が良さそうだ。
かかる理由から、ISPによるブロッキングには様々な課題があるが、あまり法と抵触せず実現できる児童ポルノ対策は山ほどある。例えば画像検索について、諸外国では児童ポルノ画像の削除がNPOの手で進められているが、日本では同種のNPOがないこともあり十分に削除できているとはいえない。また、単純所持が違法化された暁には、児童ポルノ画像の所持そのものに法的リスクが伴うようになる訳で、かかるリスクを回避したいという需要に対して、セキュリティソフトベンダが対応することも一案だ。端末側へのソフトウェア導入であれば、諸法制と整合的なかたちで日本でも厳しめのページ単位ブロッキングを提供できる可能性がある。単純所持の違法化が決まれば、あとは民間自主努力でできる糊代も結構ある。
という訳でブロッキングは引き続き議論されるらしいので、諸々どう対応しようか考えている。なかなか簡単ではないですね。