雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

児童ポルノには毅然とした対応を要するが拙速は慎むべき

わたしも子どもたちを犯罪被害から護るために法規制の強化を躊躇すべきではないと考える立場だが「単純所持」の禁止とブロッキング制度導入については慎重に考えている。特に単純所持の摘発で、英国ではかなりの自殺者を出しているし、過剰な社会的制裁を受けた挙げ句に冤罪が発覚しても権利回復を図られないケースがある。米国でも本人に所持の意志がなく、マルウェアに感染しただけと分かったにも関わらず、単純所持の定義を巡って延々と公判が続いているケースがある。

子どもたちを犯罪被害から守るためには、法規制の強化を躊躇すべきではない。 (略) まずは「単純所持」の禁止とブロッキング制度導入に焦点を絞って、法改正を検討すべきだ。

諷刺映画までつくられた痴漢冤罪に対してさえ未だ適切な対処のできていない日本の司法制度に、各国の運用で濫用の歯止めがかからず、冤罪被害者の権利回復を行い難いことが分かっている刃物を軽々に渡す訳にはいかない。
ブロッキングデンマークで成果を上げているというが、どういった統計的根拠があるか気になるところだ。英米にみる自殺や冤罪、フィンランドにみる検閲対象の拡大解釈など、法改正を推進している与党が十分に調査した形跡がみられない。結論ありきのチームでいくら形式的に議論を重ねても意味がないのである。
各国の当局関係者を呼んで数十分の講演をしてもらったりヒアリングを行うだけでは、先方に都合のいい話ばかり出てきて当然ではないか。少なくとも内閣提出法案をつくる場合なら、何ヶ月も時間をかけて各国の状況について調べ、有識者や業界関係者を交えて日本の国情とあっているか十分に検討する。
小選挙区制となって官邸主導は時代の流れではあるが、議員スタッフを強化しないまま、官僚の作文を審査するために形成された党内手続きを手直しもせず、政治主導の議員立法を通そうとすれば、華々しい業績をつくろうと無理を通して道理が引っ込む過激な提案ばかり簡単に通ってしまう。
原告資格が幅広く認められてNPOによるクラスアクションが定着し、慣例法で相矛盾した法律間の齟齬を判例で裁判所が読み解き、裁判所による違憲法令審査権と執行停止が機能している米英と、原告資格が厳密でクラスアクションが難しく、大陸法で法律間の整合性に厳しく、違憲判決を受けた法令の執行停止がない上に、裁判官人事や統治行為論違憲法令審査権が形骸化している日本とでは、出来の悪い法律が与える社会的影響の深刻度が大きく異なる。
「子どもたちを犯罪被害から守る」ことを錦の御旗とするならば、日本の犯罪実態に即した地に足の着いた議論が行われるべきだし、諸外国の事例を参考にするならば、当局の言い分だけでなく弊害を巡る社会的摩擦もしっかり調査し、かかる制度が日本に導入された場合の懸案も十分に検討される必要がある。
政治主導とは本来、官僚やスタッフによる検討の方向性を政治家が導き、判断を要するところで政治家が政治的判断を下すべきであって、功名心に駆られて十分な審議をせず、思いつきや思い込み、他国からの圧力で、拙速に次々と法律をつくられては大変なことになってしまう。議員立法であっても法案の横書き縦書きだけでなく、周辺の各国動向調査や日本で適用した場合の検討など、内閣提出法案と同様に十分な検討を裏付ける報告書が出て然るベきだ。
まあ「検討すべき」とのことなので目くじらは立てず、諸外国の「単純所持」禁止やブロッキング制度導入が機能しているのか、冤罪を防ぐ工夫は十分に機能しているのか、ここは読売新聞による気合いの入った調査報道を期待しようではないか。