雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

SI業界もネット業界も世界に打って出られない理由

日本のSI業界を垣間みて絶望して逃げ出して、業界を外から捉え直して5年ちょっとになる。日本のソフトウェア産業とかSI業界が世界に出て行けない要因は気合いとか技術力ではなく産業構造や規制に起因していることが分かったし、日本でトップに立った会社が世界に出て成功するかというと難しいと感じている。梅田さんはネットならまだ勝負がついていないから頑張れるというが、僕はメタレベルの問題を考えるとネットも駄目だろうなと諦めつつある。
米国にはSI業界ってあまりなくてコンサルティングとかプロフェッショナル・サービスに分かれているのに対し、欧州では日本的なSIerが結構あって、富士通サービスなど日本勢も頑張っている。この違いはどの辺からきているかというと、結局のところ雇用流動性だ。米国では要らない社員をいつでも切れるから、プロジェクトの中核には技術を分かった人間をインハウスで採る。そういう連中を必要に応じて雇える労働市場の厚みがあり、要らなくなったらクビにしても問題ない。
日本も欧州もそういった柔軟性がないので、SIerが雇用の緩衝材となって上流工程から面倒をみる。そうすると結局SIerのプロジェクトリーダではシステムに会社の業務プロセスを合わせろといえないので、往々にしてコミュニケーション・ギャップが発生して「理不尽なコンピュータ」が蔓延ることになる。製品事業ではなく人材サービス事業の側面が強いため、そのままでは世界に打って出ることも難しい。
これまで米国ペースで産業の骨格が規定されてきたIT産業って、日本や欧州のように雇用流動性が低い産業構造にとっては酷だよなとわたしは思う。IBMメインフレーム全盛で、IBM, DEC, HPが日本企業と同じように終身雇用・年功賃金でやってきた間は気合いと根性で闘いようがあったが、1990年代以降オープンシステムで業界全体が流動性を基調に動き始めた頃、通信自由化でNTTからFNHに対する研究開発投資の還流もなくなった追い打ちもあって決定的に立ちいかなくなった。
米国のIT産業は今も軍需が支えているし、日本のIT産業は戦後ずっと電電公社が支えてきた。日本はNTTに代わるイノベーション・エンジンをみつけられないまま、米国のいうなりになって通信市場を解放した。当時はJapan as No.1と煽てられてバブルで目が曇っていたのだろうし、問題の深刻さを認識していなかったか、米国とシビアな交渉をできる環境にはなかったのだろう。Bell研の凋落とかも踏まえると遅かれ早かれ通研-中研モデルでは立ち行かなくなったのだろうし、問題はIBM Watson LabsやXerox PARC、MSR、Googleのような後続となる研究機関が育たなかったところにある訳だが。
ともかく日本と米国では客の置かれている状況も、抱えている問題も違うのだから、日本のSI業界で勝ち上がって欧州に進出するのはまだ現実的だが、米国で勝ち上がるにはストイックに受託開発を請けず、経営レベルで国籍の多様性を図り、製品企画の段階からグローバル展開を見越した検討を行うべきなんだろうけど、そういったグローバル経営を指向するなら、最初からシリコンバレーとかに本社を構えた方が採用とか楽なのではないか。
SI業界だけでなくネットも状況はあまり変わらず、シリコンバレーYoutubeTwitterのような無謀ベンチャーを起業できるのは、ベンチャーに飛び込む世界中の優秀な若手がいて、Microsoft, Yahoo!, Googleといった買い手があって、ともかく技術を磨いて利用者を抱え、トップノッチで居続ければexit planを立てられるからである。彼らが欲しいのは技術や知的財産、ユーザーベースであって従業員とか既存の製品ラインじゃない場合が多いから、日本のように整理解雇4条件が厳しく、わがままな顧客を抱えているところには手を出し難い。そしてexit planが立たなければリスクマネーが流れてこない訳で、畢竟、日銭を追わざるを得ないのである。
それに限らず日本の場合は空気を読まないと産官からあの手この手で潰されるし、投資家も顧客企業もチキンだし、いくつか安定顧客を抱えながら収支をバランスさせる経営戦略でなければリスクをヘッジできず、そういうオーバーヘッドを抱えたまま、無謀を許され成長に応じた人材を容易に調達できるシリコンバレー組とグローバルで伍するのは極めて難しいのではないか。
結局のところ日本は米国の背中を追って通信や金融を自由化し、行政から予算と裁量を奪ったものの、雇用は自由化できなかったから、従前のような官製談合で需要を均衡させることができないまま、民間企業に雇用義務だけを課すようになり、活力を大きく削いでしまった。そして資本市場にカネが流れ込んでも、労働市場に厚みができなかったせいで、期待されたほどの技術ベンチャーも育たなかった。
これは政策の失敗だから本来は役所がケジメをつけるべき問題なのだが、数年前から自由化疲れというかフレームワーク派の多くが夢破れて下野したというか、旧き良き開発主義に回帰しようとして「歴史は二度繰り返す。 一度目は悲劇として、二度目は喜劇として」 というマルクスの言葉を地でいっている。もはや大後悔している暇などないのに。
という訳で「今の日本のSI業界にいない人から、こんなに上から目線でものを言われたくない」という誹りを覚悟で申し上げると、日本のSI業界もネット業界も、気合いと根性だけじゃ海を渡れないだろうな、というのが正直なところだ。もちろん気合いと根性も重要だが、日本人として日本という枠に囚われず世界で活躍するとか、シビアな現状認識に基づいて政策転換を図るとか、やれそうなことは業界内外で山積している。僕も上から目線で批評するだけではなくて、政策の失敗に対して政策的にどう尻拭いできるのか模索しつつ、日本にとって勝ち目のある線引きや技術戦略がないものか悩んでいる。

この文章の裏には、日本のソフトウエア業界は過去の歴史において国際競争力を持ちえなかったからダメだけど、ネットならまだ勝負はついていないからこれからがんばれる。でも日本のソフトウエア業界は勝負ついているよねという風な主張に見える。
これって、日本のソフトウエア業界にいる人、特にシステム・インテグレーション業界にいる人からみれば、違和感のある発言ですよ。SI業界は、過去に国際競争力を持たなかったし、これからも変えられないっていってるんだから。
はっきりいって、今の日本のSI業界にいない人から、こんなに上から目線でものを言われたくない。

で、ここから暴言モードね。国内で勝ち抜けない程度の自分のレベルが低いうちから世界とか何とかいうな、と(w まずは日本でトップに立ってみろ、と。