雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

最新の自民党案が詰まっていない件

ネット規制法は国会日程から逆算すると、遅くとも来週早々に党内調整、与野党協議ともに終えないと時間切れとなる。最新に近い自民党案を入手したが、4月中旬の内閣部会案を概ね踏襲しており、民主党案と比べて詰まっておらず、彼らはこの1ヶ月近く何をやっていたのか理解に苦しむ。内容としては高市私案から行政処分や立入検査、ネットカフェ規制などを抜いたものとなっている。

フィルタリング法案がここにきて進展をみせていて、民主党が骨子をサイト上で発表する一方、自民党は、サイト上にはないが報道はされている。自民党案は、困ったことにきっちりと公表されておらず、ニュアンスも報道によって違いがある。

今回のネット規制法騒動に巻き込まれ、小泉劇場政治を経て政策決定過程が官邸主導になったものの、今なお議員スタッフ機能が決定的に欠けており、結局のところ霞ヶ関にしか政策立案機能がないことが分かった。
総務部会案は総務省、内閣部会案は途中から経済産業省が関わっている。高井・高市両案には警察関係者が関わっているらしい。官僚が作文しているといっても、通常の内閣提出法案ほど時間をかけられず、民間や有識者を巻き込んで時間をかけて議論を積み上げる訳ではないので、法案の完成度は高くない。官僚による「こんな法案、内閣法制局なら絶対に通せませんよ」という自嘲的な感想を方々で聞いた。
正直あと2週間ちょっとで法案を通そうとしているのに、自民党案は骨子さえ平場に出てこず、断片的で矛盾したマスコミへのリークのみというのは異常ではないか。高井美穂先生や高市早苗先生の方が早くからキッチリ国民に説明し、フィードバックを受けては直してきた。今国会で通すなら民主党案のような理念法でやるべきだし、最新の自民党案のように新たに組織をつくり規制を大幅に強化するのであれば、無理に今国会に間に合わせるのではなく、きっちり時間をかけて議論すべきだろう。
自民党案はフィルタリング技術に対する政府の関与を強めるだけで、学校裏サイトや電子メールを使ったネットいじめに対応できていない。携帯電話は既に各社ともフィルタリングを提供しているし、国産PC各社は法律になる前からフィルタリング・ソフトをプレインストールしている。法律で義務づけたところで、新たに対応を要するのは中小ホワイトボックス・ベンダやDell、HP、Appleといった外資系くらいで、概ね現実の後追いに過ぎないし大きな効果は期待し難い。
また法案ではフィルタリング・ソフトウェアとフィルタリング・サービスを区別し、前者は機器メーカーに導入義務を課し、後者はISPに提供努力義務を課しているが、フィルタリングを構成するサービスとソフトウェアはセットで提供されるべきで、PCベンダとISPが別のフィルタリング・ベンダと契約するケース等が想定されていないのではないか。来週にも国会提出される法案の横書きとは思えないほど詰まっていない。
フィルタリングは過渡期の技術であって、これから本人認証やID連携、パーソナライズといった技術が成熟する過程で不要となるだろう数ある児童保護技術のひとつに過ぎない。それを監督するために仰々しい組織を政府部内につくって、彼らは何をしたいのだろうか。技術革新や児童保護技術市場への新規参入を阻害するだけで、大して効果が上がらないのではないか。メッセージ監視や、保護者など児童に関係する大人からの照会に対して掲示板のパスワードを開示することに対する責任制限とか、ネット犯罪統計の拡充とか、他にもやるべきことはあるだろう。
そもそも性急すぎる議論の背景には、与野党とも内閣提出法案を検討するための政策手続きを大きくいじらないまま、官邸主導で議員立法を増やしてきたことがある。内閣提出法案と議員立法とで立法コストがアンバランスとなっているため、個人的な正義感からスタンドプレーに走って、議員に入れ知恵しようという役人も出てくる。
官邸主導を続けるなら政権政党が米国や霞ヶ関並にスタッフを充実させて時間をかけて法案をつくり、官僚と政治家との接触制限を図るべきだ。だいたい与野党とも法案を衆議院法制局につくらせている点からおかしい。縦書きまで政党の政策スタッフが起草し、衆議院法制局の機能は内閣法制局と同等のところまでに止めるべきではないか。
わたしは違法有害情報対策に関して制度整備と更なる民間自主努力が必要と考えているが、いまの自民党案が大幅に直らないようなら今国会で時間切れに持ち込み、改めて時間をかけて民主的に議論した方がいいのではないかと考え始めている。民主党は早くから情報を開示し、自民党に先駆けて完成度の高い骨子を公表したのだから、与野党協議を通じて民主党案の方が出来のいい部分について、十分に自民党案に反映されることを期待している。