雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

あいまいな日本のニコニ・コモンズ

僕がニコニ・コモンズで評価しているのは、後からクローズドにできるところ。これはisedをやっていた時分、東浩紀がCCで作品を発表し難いと指摘していた点だし、僕がSDの馮編集長と相談して三酔人電脳問答をWeb先行公開した時、刊行の可能性を潰さないためにCCライセンスを適用できなかった理由でもある。
inf.女史が鋭いなぁと思うのは、ニコニ・コモンズがこういった柔軟性を発揮できている理由がライセンスではなくガイドラインであることを見抜き、それが法的安定性に欠く等の課題を抱えていることを指摘しつつ、ニコニコ動画の中であれば問題ないと気付いていることだ。

ニコニ・コモンズはライセンスではなく利用ルールないしガイドラインである。ガイドラインであり、そしてサービスの枠組みの中で利用者が管理され追跡可能であるような設計をしているからこそ、上記問題点をクリアできるのだろう。逆に言えば、そこがニコニ・コモンズの限界を画することになる。

僕はニコニ・コモンズを契約ではなくガイドラインとして設定したことは、極めて秀逸な経営判断と感服する。ひとつは先に述べたように、ガイドラインだからこそ契約の方技術的な制約に縛られず、収益構造に合わせて柔軟な制約をかけられることである。
もうひとつ、こちらの方が重要だが、日本のコンテンツ業界は伝統的に契約ではなく仁義で業界の取引慣行が成立してきたことである。ここ数年のコンテンツ政策で、役所や経団連が躍起になってコンテンツ業界に契約主義を持ち込もうとしたにも関わらず、成功していない。
そのことが時にコンテンツの再利用を阻害している一方で、クリエイターの思い入れを受け止めた柔軟な貸借関係を設定し、法執行とは別のガバナンスを働かせてきた。業界の暗黙の了解と比べればガイドラインはずっとオープンだし、クリエイターの思い入れを斟酌した柔軟な権利設定ができる。CCと比べてずっと日本市場でのコンテンツのマネタイズが容易になることが期待できる。
最後にニコニコ動画Youtubeのような単なるコンテンツ配信プラットフォームではなく、コンテンツ流通・創造プラットフォームたろうとしていることも興味深い。ニコニコムービーメーカーやニコニコニュースメーカーは、端末側で動くソフトウェアとして実装されているが、いずれSaaSとして提供されるかも知れないし、サーバー・クライアントで緊密に連携することで、ニコニコ動画上の素材を活用した二次創作の利用を追跡することは技術的に難しくない。
ニコニコ動画は登録ユーザーを多く抱え、有償会員だけで既に20万人近くいる。コンテンツの再利用について価格表を設定し、ポイントシステムを利用した会員間のコンテンツ利用料決済や、投げ銭システムを通じた二次創作者支援の枠組みも作りやすいのではないか。ニコニコ動画内で完結していれば、超流通っぽい権利処理システムを構築することも現実的ではある。
ニコニコ動画を黒字化していく上では、コンテンツ創作のエコシステムを拡充し、新しい文化の発信地点としての地位とブランドを確立しつつ、単なる動画ではなくコメントや二次創作、リスペクトといった複製の難しいメタデータ間の依存性の高いコンテクストをどこまで囲い込めるかが鍵となるのではないか。