最も地に足のついたケータイ本
献本御礼。ここ数ヶ月、学校裏サイトとかケータイに関する本を濫読したにも関わらず、どれもケータイ・ネイティブじゃないオヤジが書いていたせいか違和感があった。id:seijotcpによる本書は、ネット世代の批評家が子ども達のケータイ利用の実態に切り込み、ケータイの溶け込んだ学校生活を活写している。ケータイ勝手サイトの多くが裏化していないこと、子ども達が大人よりずっとネットを使いこなしていること、ネットいじめは文脈に依存し、リアルな人間関係の閉塞感に起因している場合が多いことなど丁寧に論じている。一部オヤジには理解し難そうな学校&若者文化論もあるが、全てのネット規制論者必読の一冊だ。

- 作者: 荻上チキ
- 出版社/メーカー: PHP研究所
- 発売日: 2008/07/16
- メディア: 新書
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技術者として兎角「何ができるか」でサイトをみてしまうが、実効性のある対策を示すには「どう使われているか」「問題がどう起こるのか」といったところに着目して、ピンポイントで対策を打った方が効果的なのだが、各論になると中途半端な知識と想像力で、手っ取り早く場当たり的な走ろうとしてしまう。子どもの生活に手を突っ込むのだから、子どもを観察するところから始めるべきなのに。
本書は中高生によるケータイに対する冷静なコメントを随所に織り込むことで説得力を増している。だいたいヒステリックに規制を叫ぶオジサンオバサンって、状況を分かっていない保護者に対して誘導的なアンケートを実施して、数字を盾に極端な議論に持ち込んで押し切ろうとするのである。
これまでは大臣要請や議員立法のドサクサで非常事態だったから、こちらも口八丁で応戦してきた訳だが、そろそろ子ども達の声に耳を傾けなきゃ駄目なんじゃないか。ケータイやサイトではなく学校文化や子ども達の人間関係に着目し、ケータイが生活に溶け込んでいることの生活としての全体性を捉える必要があるのだが、カルチャーギャップが大きく、接点もないので非常に難しい。
そういった問題意識を感じている時に読んだので、非常に我が意を得たりという印象を受けた。こういった良質なフィールドワークに基づく本が増えてくると、もっと冷静に建設的な議論をできるのだが。まだ間に合うので、こういった地に足のついたケータイ本が増えてくると、事態が良い方向に転がる可能性が高まる気がする。大事な時期に非常に心強い1冊だった。