雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

人生のいつ起業するか問題

大学に入った頃は卒業までに1000万円貯めて起業するつもりだった。まだ株式会社に資本金規制があった時代のこと。二年近く自営コンサルをやったが、背伸びしても小さな仕事しかできないと観念してベンチャーに入社。仕事の傍ら他のスタートアップを手伝ったり、仕事で会社設立を手伝いサービスを立ち上げたりもしたが、株を入れたり役員になってはいないから経営経験はない。

起業したいなら若いときにしたほうがよい重大な理由。それは歳を取ると守るものが増えてきて人生のリスクがなかなか取れなくなります。

起業するために資本金を貯めるんだと前職の副社長に話したら「人徳とカッチリした事業計画があればカネなんて自然と集まる」と叱責された。前にいた会社の経営が傾いた6年前に今いる会社に転職。大企業の横暴で手伝っていた会社が捻り潰される様子を何度かみて、独占企業と戦うスキルを身につけ、重層的な下請け構造をぶっ壊したかった。転職時は周囲にはの上にも3年と触れ回っていた割に、そろそろ6年になる。
起業そのものが目的なら、学生時代にやっておいて損はない。幾晩も徹夜するような無茶は若い時期じゃなきゃできないし、アルバイトと比べれば、どんな下らない仕事でもずっと割がいいから。人件費を払えなかったり常識がなかったり、普通の会社として経営が成り立っていなくても、学生なら周囲も許してくれるだろう。ところがいちど実際に宮仕えを経験し、増してや妻子を養ったりすると、失うものが多くなって家計のバーンレートも上がり、途端に起業のハードルが高くなる。
じゃあ若いうちに起業すればいいかというと、ベンチャーだって金蔓や元請けは大企業の場合が多いし、細々とやっていたところで大企業の横暴に振り回されるときには振り回される訳で、大企業の論理を知らなきゃ苦しくなる場合が結構ある。それに、日々の資金繰りばかり気にして小さな仕事に振り回されていると、若く本来であれば視野を広げるべき時期に、下世話な苦労ばかり覚えてしまう場合もある。だから確かに若いうちに起業した方が楽といえば楽だけど、それが成功する可能性は高くないし、有意義な人生経験となるかは志の高さや運に左右されるのだろう。
ふつう独立は手段であって目的じゃないだろうし、ひとには適性もある訳で、楽だから早く起業すればいいという訳でもない。まあ創業間もない企業で経験する苦労って、ちゃんと経営されている会社とは別のところがあって、世知辛い現実が隠蔽されていなかったり、風通しが良くて世界を理解する上で都合のいい場合もあるだろう。僕は結局のところ起業しなかったが、ベンチャーに飛び込んだり起業を手伝うことで、起業経験のお相伴に預かることはできた。まあ実際の起業は、手伝うことよりずっと腹を括る必要があるし、もっと深くシビアな世界なのだろう。
起業って機会があるからやるもので、それは必ずしも資金が集まるかも知れないとかではなく、勝てる見通しが立つかという問題だ。現実を知らないほど無鉄砲だし、逆に知りすぎて臆病になってしまう耳年増だっている。若い時期に無鉄砲な失敗をして勉強し直し、どっかで再挑戦する手も、経験を活かして挑戦している若人を手伝うこともあるだろうし、数は少ないが若いうちから困難を乗り越えて成功する奴もいるのだろう。
これは半ば泣き言だが、火事場のような起業と子育てとの両立は難しい気がする。だから起業するなら結婚前か、子供の手が離れてからがベターなのだろう。子供の小さなうちに脱サラとか、よほど見通しがなければリスクが大きい。とか何とかいって会社にしがみつくチキンがここにいる訳だが、いつ起業するのが楽かという話と、いつ起業すべきかという話は別で、後者は各論でしかない。運不運も向き不向きもある世界なのだし、機会があれば周囲が放っとかないだろうから、あまり思い悩んでも仕方ない気がする。
自分の手で仕事をつくり雇用を産むって本当にすごいことだし、そうやって社員の生活を背負いつつ目線を高く持っている経営者って本当に魅力的だ。彼らだから仕事を創れたのか、仕事を創る過程で彼らのように一皮剝けたのか、両方なのだろう。それは素晴らしいことだが、自分に同じことができるかは別の議論だ。彼らだって自分の意志で全てを決めたのではなく、大きな流れの中でそこに至る選択をしてきた訳で、あまり気張らずに世界を理解し、種を撒き、天命を待ち、或いは受け止めるしかない。たぶん置かれている立場と状況を理解するために飛び込める世界は諸々ある。そういう世界ではないか。