雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

業界を変えるのか、業界が変わるのか

このところ食べ物を減らしている割に運動しているせいか、ちょっとブログで大上段な議論をする気力がない。というか日付が変わる前に眠くなる超健康的な生活を送っている。ところで来年の1月27日にSoftware Japan 2009という情報処理学会のイベントがあって、例年通りイノベーティブ社会基盤フォーラムで出し物をしようというので水曜日に集まって会議をした。まだ確定じゃないんだけれど異業種とITとの結合で面白いネタがいくつかあるので、その辺を紹介しながら、既にある仕事をITに置き換えるんじゃなくて、ITだから可能となるような新サービスをどうやって生んでいこうか、みたいな話をする方向で議論している。何か経済が大変なことになっているから、不況下のイノベーションみたいな話も面白いかなと思ったんだけれど、具体例を基に前向きな話をしたほうが面白いよね、というんで「IT×○○ではじまるイノベーション」ってお題に決めた。
このフォーラムをつくったとき、僕には日本からなかなかイノベーションが生まれ難いという問題意識があって、それは重層的な下請け構造とか人月商法、それから人材の流動性とかに問題があるんだろう、そういった社会インフラをどう捉え、日本からイノベーションが生まれる仕組みをつくるために、組織人としてどう動き、社会に対して何を働きかけるべきだろうか、みたいなことを考えていた訳だ。あれからマクロ的な状況がどれくらい変わったか分からないけれども、最近は日本も捨てたもんじゃないし、別に米国を真似てうまく行きそうもないよな、とか考え始めると出口が見えない。
自分から飛び込んだ下請けっぽい仕事で苦労して、いつか業界を変えてやるんだ!とか気負って勉強した。初めて役所の研究会に名を連ねたとき、セキュリティの話なのに無理やり重層的な下請け構造を問題にしようとして、まあ無理だったんだけれど、それから何年か経って、IT業界の何が問題か、みたいな議論をするとみんな似たような話をするんで、5年も経つと随分と認識が浸透するものだなあ、とか改めて感心するんだけれど。
まあ恐らく、ダメな会社が淘汰されて市場を通じて業界が変わるって面もあれば、気負って業界を変えようという人が出てきて時計の針を早めるところもあって、業界を変えようと思わないといっているひとも、業界を変えると気負っているひとも、状況認識や方向性について大きく齟齬がある訳じゃない気がする。まあ、現実に悲惨な下請けって世界が今あって、そうそう簡単になくなりはしないだろうし、大上段に語ると反発を食うんだろうな、という気はする。けれど反発を食ってでも、変えられるところから動かしていくべきなんだよね、きっと。
これだけ大っぴらに重層的な下請け構造・人月商法に対する批判が出てきたというのは、80年代ごろは非常にうまくいっていた仕掛けが、これまで通り回らなくなりつつあるんだろうし、他にも稼ぎ方があるから見て見ぬふりをすることもないよね、的な状況に移行しつつあるのかも知れない。数年前と比べると、小さな会社でも製品やサービスの品質が良ければ大企業と口座を開きやすくなったし、小さな工数で大きな仕事ができるようになるほど、小回りの利く中小ベンダの活躍できる土俵は広がるのだろう。
団塊世代SEの再雇用が思ったほど進んでいないらしく、旧態然とレガシーシステムのメンテナンスで食ってきたベンダは人手が足りなくて困っているらしい。再雇用で給料は減り、体力的には厳しいというので敬遠されているらしい。本当に必要なら、待遇を見直せばいいんだろうけれど。若者はCobolを勉強したがらず、無理にレガシー系の案件にアサインすると会社を辞めてしまう、という嘆きも雑誌で取り上げられている。voice and exitというが、技術者はexitを通じて人月をモノのように扱う領域から逃げているのだ。世の中って意外と、お金で買えないコトがあるんだね。
SIって大きな業界だし物事は少しずつしか変わらない訳だけれど、技術の進歩で従来なら採算に乗らなかった仕事もペイするようになり、小さな会社でも元請けとして仕事を請けられるようになった。技術者は使い捨てられる世界より、達成感が得られて先に繋がる案件を求めて動く。そうやって世の中は徐々に時の流れに押し流されるように変わっているのだろう。
今ある仕事とか業界、その仕事の進め方を批判しても詮無いところがあって、新しい仕事を創り、技術者が大切にされる環境を増やしていければいい。いよいよ人材が集まらなくなれば、これまで重層的な下請け構造でやってきたところも、仕事の進め方や人材の育て方を考え直すんじゃないか。自分の足元から仕事を創って、技術者の楽しい居場所を増やしていくことが、少しずつ世の中を動かしていくのだろうし、これまでの仕事の進め方をどう変え得るか議論したり、制度的な手当を検討することも、場合によっては時計の針を進めることになるのだろう。
泣いても笑っても業界は徐々に変わるんだろうけど、変えようとする営為があってもいい。流れに押し流されるよりは少しでも、波に乗ったり風を煽った方が楽しそうじゃん。学生さんとか、外から議論を眺めているとしんどそうに見えたり、ちょっと心配になるかも知れないけれども、多感な時期に業界構造や価値観の転換に触れ、右往左往することって得難い経験だと思うんだよな。で、ITを生業にするってIT企業に入るだけじゃなくて、ITと何かを絡めて全く新しい何かをつくるって、まだまだ可能性が山ほどあるし、日本に向いてるんじゃないか、みたいな明るい話をできればいいな、と。

イノベーションはしばしば新結合と訳される.IT技術自体の進歩もさることながら,最新のIT技術を異業種で活かしてこそ,新しい産業や生態系が生まれるのではないか.イノベーティブ社会基盤フォーラムではこのような問題意識に基づき,医療,農業など様々な分野で起こっているIT技術を活用したイノベーションに注目し,新たな可能性について検討する.単にITを使った自動化・業務効率化の枠を超えて,ITを使ってこそ可能となるイノベーティブな製品やサービスを生み出すために何が必要か,実際の具体例を基に会場とネットの同時進行で議論を深めたい.