雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

情けはロスジェネの為ならず

実際、米国の産業で起こったことはMBA上がりとか超高給ハイフライヤーと、ワーキングプアとの二極化だった訳だ。IT業界じゃIBMとかHPとか終身雇用を社是として掲げていた企業が90年代を通じて陥落し、古き良き米国の雇用慣行の生んだ中産階級は、ビッグスリー破綻で完全に底が抜けるんだろうか。

あんまり単純化したくない問題。新卒偏重主義を捨てるというのは同時に色々なセーフティーを切ることにもなりかねない。いわゆる会社員(ホワイトカラー)とそうでない人の格差が開いてみんな会社員を目指すという状態もおかしい。
ここであえて単純化すると、年齢経験不問というのはぶっちゃけ完全実力主義で、低成長を許容しないか、成長が必要とされない(つまり給料も上がらない)単純労働のどちらかだ。だから、過度に人材の流動性を求めることは格差の拡大に寄与するのだ!なんだってーーー

極論だけどね。

日本で会社がセーフティーネットとなってきたことは事実だが、それを温存する気なら金融自由化なんかやるべきじゃなかった。金融を自由化しておきながら、労働規制に手をつけあぐねたから奇妙なことになる。団塊世代のうち出来の悪い正社員が救われ、多くのロスジェネが犠牲となった。運が悪かった連中は気を取り直して頑張るしかないが、実は問題はこれからだ。
日本を支えている製造業とか正確な金融とか通信とか物流、恐らく農林水産業とかも、頑張れば報われると信じてこれた団塊世代が支えてきた訳だが、彼らが引退した後に何が残っているのだろうか。下の世代に人的資本は蓄積されているだろうか、業務手順は形式知に落ちているだろうか、実は身分保証された正社員の高い忠誠心とか、年功序列を前提とした徒弟制度に依存しちゃいないだろうか。それらを支える基盤はこれからも残るんだろうか。それらに頼れない時、代替する仕掛けはあるんだろうか。
自動車メーカーや総合電機メーカーといった大企業は年齢カーブを維持できたとしても、彼らに部品を納入している下請け企業は技術を維持できるんだろうか。人手は女性の社会進出とか移民で賄えるといったって、彼らは何を信じてどれくらい頑張ってくれるのだろう。これから経済成長の進む国々の方が若者がいて士気が高くて希望があるんだったら、そっちの国々の方が人的資本が蓄積されるんじゃないか。
恐らくこれから真剣に考えなきゃならないのは、頑張れば報われると多くの人が信じることによって成り立っている諸々に社会構造が大きく依存しているにも関わらず、国に裏切られた世代が労働力の中核となっていくことだ。COBOLで書かれた銀行の基幹システムはいつまでメンテナンスできるんだろうか。金型産業が中国や韓国を上回る精度を出せるのはいつまでか。
水や空気のように感じているインフラの諸々が、実は終身雇用・年功序列を通じた人的資本の蓄積に支えられていたこと、遠からずそれらに頼れなくなることを思い知らされることになるのではないか。ロスジェネが割を食っているとか不平等といった議論は世代的な問題でしかないが、いま回っている仕組みがいずれ崩壊してしまうかも知れないというのは国益に関わる大きな問題だ。
新しい時代に通用する職業倫理を確立し、そこそこ人材が流動化しても回る社会構造への転換が必要となる。米国に促されて市場による調整を妄信する課程で、会社に忠誠を尽くす職業倫理が内面化された世代に甘え、金融自由化後も労働規制を維持することで彼らを甘えさせてきた。その共依存のツケは遠からず我々の世代が払うことになるのだろう。
さて、今年の年賀状はちゃんと届くかな。

The Organization Man

The Organization Man