票目当てで教育を弄ぶ愚
騒いでいるのが政治家や野次馬ばかりで、教育者や保護者の視点が欠けていないか。学校へのケータイ持ち込みを禁じるかは学校が、子どもにケータイを持たせるかは保護者が決めることで、関係のない政治家や年寄りに口出しする資格はない。
政府の教育再生懇談会(座長・安西祐一郎慶応義塾長)の小中学生の携帯電話利用に関する報告書の素案が16日、明らかになった。小中学生に必要のない限り携帯電話を持たせないための取り組みとして「小中学校への原則持ち込み禁止」を明記。「3年後をめどに施策全体の検証を行い、法的措置を含め必要な対応策を迅速に講ずることを要請する」と法制化の検討も打ち出している。
文部科学省が7月、都道府県教委に携帯電話に関するルールの明確化を通知。その中で「小中学校は原則持ち込み禁止」と指針を示しており、埼玉県教委はこれに倣った。県教委が現在策定中の「ネットいじめ等対応マニュアル」に、特別な事情がある場合を除いて県立の中学では原則持ち込み禁止、県立高校は使用を禁止すると盛り込む。
いまのところ僕は息子にケータイを買い与えていないが、小学校高学年から高校のどこかで買い与えることになるだろう。必要を感じたら買い与える。メールやネット接続、フィルタリングをどうするかは買い与える時に考えるが、子どもの目の届くうちに人間関係のトラブルとか少々あった方が教育的には望ましい気がする。
ケータイ持ち込み禁止は多くの学校で既に試みられており、これから全国一律で号令をかけて状況が改善するとは思えず。現実問題として、高校が山火事対策で灰皿を用意するご時世に、学校が子どもからケータイを取り上げられるのか。教育現場の負担や実態を無視した議論になっていないか。親として子どもには校則を破ることはリスクだし空気は読めよ、責任を取る覚悟を持てよと教えるが、子どもたちが平然とルールを破り、教師の権威が失墜した学校には入れたくない。
法制化という議論も乱暴だ。そもそもケータイを巡る事件の多くを、保護者の情報リテラシーにギャップがあり、規制や安全対策が行き届いていない過渡期の問題か、本質的に解決の難しい問題か議論が尽くされていない。個人的には過渡期の問題で、コミュニティ・サービス事業者が襟を正せば悪質な事案はかなり減らせると考える。融通の利かない法制化より、民間自主規制などソフトローや、コードで縛った方が弊害が小さく、実効性を期待できるのではないか。
子どもからケータイを取り上げたら、自宅でPCインターネットを自由に使える裕福な子と、そうでない子との間でディジタルディバイドが拡大する公算が大きいが、この点も議論されていない。公立学校が杓子定規のルールを押しつけて情報リテラシー教育を怠るなら、中学から私立に入れることも考えなきゃならない。
読者の高齢化が止まらない活字メディアや、視聴者の高齢化が止まらないワイドショーの論調に選挙目当てで迎合したつもりか、政治家も「有識者」も年寄りが多いから想像力が及ばないのか。NTTに公衆電話の増設を求めるとか、結論ありきで実現性や教育現場を無視した議論が横行している。
IT業界に身を置きつつネットの安全対策に取り組むひとりの親として、教育再生懇談会での杜撰な議論には強い憤りを覚える。まず政策論として破綻しているし、子どもにケータイを持たせるかという保護者の裁量に入り込むことは、自由主義国家の領分を逸脱している。なぜ途中で政権を放り出した無責任な首相たちの拵えた無責任な懇談会が時代錯誤の提言で社会を振り回し、肝心の景気・雇用対策や年金再建はさっぱり進まないのか。当事者能力がないなら一刻も早く衆議院を解散すべきだ。