雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

内需特需が雇用や財政の過度な硬直化を招かぬよう配慮が必要では

id:Chikirinの試算では1000万人を正社員にみずほ総研のレポートでは400万から570万人近くの不本意非正規雇用に対する手当が必要だが、これら全て雇用ニューディール政策で手当することには反対だ。公的部門で手離れの悪い仕事を創ってしまったら、景気が好転したときに成長部門に労働力が行き渡らず、数年後に経済が好転したとき深刻な労働力不足が生じて成長の足枷となってしまう。短期的には不況による失業や不安定雇用が問題となっているが、人口動態から長期的には人材不足が問題になることも考えられる。

官僚側、政治家側、産業界側からの「どこに補助金を配分するか」という視点ではなく以下の3つの基準で考える必要があるんじゃないかなっておもいます。

  1. どこが国民生活のためになる分野なのか?
  2. どこが雇用を増やす分野なのか?
  3. どこがレバレッジの大きな分野なのか?

(略)
で、でてきたアイデアをまな板にのせて、基準3つでそれぞれ評価していく。そして「どれから順に、どうやって内需市場(雇用)を作っていくか」を検討して、予算をつけ、最後にハローワークなどを通して大規模な労働者移動と労働者育成を推進していく、みたいなことができればいーんじゃないかと思う。

派遣労働者の急増による雇用の溶解は、労働者派遣法改正という政策の失敗なのだから、これは公共事業ではなく労働政策の見直しで手当すべきだ。具体的には派遣労働の規制強化と正規雇用の解雇規制緩和をセットで行い、段階的に雇用の二重構造を解消すべきだろう。
もちろんマクロ的な雇用のミスマッチを解消するには新しい仕事をつくる必要もある。ここでは中長期的な国家の生き残りのために必要な分野の義務的経費増と、短期的な雇用のミスマッチを解消するための一時的な需要拡大策に対する裁量的経費増とを峻別し、特に後者は事業終了後に再就職できるよう労働者の就業能力開発をセットとした計画を立てる必要がある。企業が事業計画を立てる場合に事前に撤退計画も立てるのと同じ要領だ。
20人学級のアイデアは面白いが、教員免許を持つ人員の手当や教室などのハードウェア、少人数教育に適したカリキュラムなど実施に当たっては課題が山積しており、景気対策として短期間で実施することは極めて難しいのではないか。やるのであれば全国一律ではなく、条件の整ったモデル校で数年間の実証事業として行うのであれば現実的かも知れない。少人数学級に限らずそういった社会実験は不況期こそやるべきだ。教員だけでなくポスドクの教育学者や社会学者もフィールドワークに参加し、様々なデータを収集して論文を積み上げればよい。英語を使って英語の授業をという話がどれほど正気か分かりかねるが、そもそもネイティブに英語が通じる教員がどれだけいるかさえ怪しいのだから、まずは教員の留学プログラム等を充実させてはどうか。
この不況で忘れられがちな論点だが、この国にとって長期的に深刻な問題は少子化による労働力不足である。雇用の溶解によって若年層の能力開発が進んでいないため、統計上の数字以上に即戦力不足は深刻となる公算が大きい。出生率を高めて質の高い教育を施し、職業教育と就業とのレリバンスを確立し、生産性を高めなければならない。本気で雇用の流動化を標榜するのであれば、新卒正社員に対する社員教育に依存しない職業教育の充実や、転職しても不利にならない年金制度も整備する必要がある。
いずれ移民受け入れなど本気で世界中から優秀な人材を集めようとするならば、先だって能力に応じて幅広い就業機会を提供し、賃貸住宅で保証人を求める慣行や外国人差別、英語の通じない公共交通機関など様々な障壁を改善する必要がある。りんかい線で「次は国際展示場」というアナウンスが日本語でしか流れないのは悪い冗談だ。シリコンバレーに行けば英語、スペイン語だけでなく、中国語、韓国語、ベトナム語で切符を買うことができる。3〜5年間かけて、あらゆる公共機関や街頭案内で少なくとも英語・中国語を使えるようにしてはどうか。これは時限的な需要だが、高い語学力を持った人々に対する公的需要は他にもある。
例えばNHK国際放送は菅総務大臣の時代に強化の方向が決まったが、いまPodcastで聞いても概ね日本のニュースを外国語で放送しているに留まっている。国策としての国際放送を本気で強化するならば、BBCアルジャジーラのように、国際情勢に対する日本の立場からの見立てを全世界に発信する必要があろう。そのためにも海外特派員を増やし、海外にニュースを配信し、取材能力と発信能力の双方を高める必要があるのではないか。mixiで普通にRecord Chinaや中央日報の日本語記事が配信されているが、Naver百度に現地語で日本発記事はどれだけ掲載されているだろうか。朝鮮半島情勢が流動化するなか韓国の対日世論が厳しくなっているが、現地語での現地メディアに対する情報発信が足りていないのではないか。
他にもやるべきことは山積しているが、皮算用ばかりしても仕方ない。政策に優先順位をつける場合、

  1. 政策需要と期待される効果の明確化
  2. 必要な資源や制約条件
  3. 義務的経費か裁量的経費か
  4. 蓄積される人的資本とスキル・ポータビリティ

等について検討する必要がある。その上で、

  • 恒常的な義務的経費増
  • 時限的な裁量的経費増

をバランス良く組み合わせる必要があるのではないか。前者は保育施設の整備や教育の公費負担拡大、職業教育の拡充など、いずれ増税が必要となっても将来の労働力率向上や国民負担率軽減に資する、好況になってからも継続すべき歳出が考えられる。後者は短期で達成できるインフラ整備や、生産性の低い産業の構造改革を模索するモデル事業、先駆的な社会実験、野心的な研究開発など、手離れが良く、迅速な実施が可能で、事業に従事した労働者のエンプロイアビリティ向上や将来の商業化を期待できるプロジェクトが望ましい。いずれの事業も事業者の正規雇用率などを入札時の評価対象に含めることで、間接的に派遣労働者正規雇用への転換を促すこと等も考えられる。
いま政策的に内需を刺激することは重要だが、いずれ経済状況が変わったときのことも考慮して、制度改革と予算措置を併用して雇用の二重構造を段階的に解消しつつ、雇用や財政の過度な硬直化を招かぬようポートフォリオを組むことが肝要ではないか。