DRAMが先行する輸出消耗戦の不毛
独DRAM大手のQimondaが破産し独経済省が支援を検討している。2003年に破綻しかかったHynixが韓国政府の補助金で生き存え、DRAMを乱売し続けたことが世界的な過剰供給を招いた。製造コストを大幅に下回るほど市況価格は低迷し、昨年エルピーダに抜かれるまでHynixに次ぐ世界3位だったQimondaの経営を直撃した。
シリコンサイクルの谷を乗り切れば残存者利益を得られる過去の経験則から、潰すに任せるよりは政府による救済が合理的と考えても無理はない。しかし各国が同じように考えれば市況が悪化したところで各社とも撤退せず、慢性的な供給過剰で価格は回復しない。
これから似たような問題が自動車やFPDでも起こる可能性がある。平時なら経営責任を問われるところ、業績悪化は経営環境の激変と、他国のアンフェアな補助金を原資としたダンピングに負けたのであって、本来の国際競争力は高い、経済が回復すれば業績も回復するだろうから、当面は政府が買い支えて技術の散逸を防ぐべしという発想が出てくるのは自然なことだ。
野放図な財政支出が、短期的には通貨安を生み輸出振興に繋がる。しかし為替の乱高下は管理会計を混乱させ、ダンピングによる在庫処分を招くかも知れない。製造設備を輸入に頼っている場合、通貨安で長期的には設備の更新が難しくなる。全体として需要不足・設備過剰なのだから古い設備は処分し、手持ちの最新設備で価格競争に参加してシェア確保に走り、生産性の低い同業他社を疲弊させるのがゲームとしては正しい戦略か。しかし競合相手も政府の支援を受けて破綻せず、誰も市場から退出しなければ市況は回復せず消耗戦が続く。
各国が競合相手国の製品に対して相殺関税をかけ経済のブロック化が進むのだろうか。競争相手の経済を救済することに対して保護主義的な反発が強まるだろうか。手持ちの製造設備を活用しつつ付加価値を高めるために、部品ベンダと完成品ベンダとの垂直統合的な結びつきが強まるだろうか。結局どこで競争の決着がつくのだろう。市場を押さえたベンダか、最後まで国が買い支え切ったベンダか。生き残りに必要な環境は為替レート?マーケティング?政府の財政基盤?世界恐慌後のブロック経済まで逆戻りして軍事・外交か?
円独歩高、需要の低迷、政府支援による供給過剰の継続が続けば、国内輸出企業の経営も厳しい。経済悪化とアンフェアな競争環境でのダンピングが続いて業績回復のシナリオを描き難く、市場からの資金調達が難しいようであれば、国が買い支えることに対して当面は国民の支持を得られるのではないか。しかし消耗戦の出口が見えない。
個別企業が債務超過じゃ破綻しない世界で、誰がどう勝ち残るのか。需要家と深い関係を持ち在庫を捌ききる販売力を持つ企業か、間接費を極限まで削って圧倒的な経営効率を持つ企業か、他の追随を許さない高付加価値や生産性といった技術力を持つ企業か、相殺関税など不利な取引条件を課されない外交力を持つ企業か。全く新しい成長市場を切り開いた企業か。
当面は他国に対抗し、基盤技術を持つ企業を政府が買い支えるにしても、いずれ景気が回復したところで各国が同じように産業を保護すれば、淘汰が進まず残存者利益を得られないまま消耗戦が続くことも考えられる。各国が関税や禁輸、新興国への援助など、政府主導で需要を創り奪い合う環境になったとき、日本はうまく外交的に立ち回れるだろうか。