雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

解雇規制の見直しよりセーフティーネット構築と景気底打ちが先

解雇規制が若年雇用を犠牲にしていることは明らかだが、この景気後退局面に解雇規制を緩和したら不用意に失業率を上げてしまう。労働契約法制は次の景気回復局面で、失業率改善を加速する方策として検討すべきではないか。

自分はあぐらをかいてなどいない、ちゃんと働いている、自分は自らの能力と仕事ぶりによっていまのポジションを得ている、という自負がある人には、ぜひ解雇規制の撤廃に賛成してほしい。解雇規制こそ、多くの犠牲のもとに「あぐらをかく」人を作り出している「構造」そのものだ。

それまでに考えたいことは、誰もがキャリアの自己決定ができるほど強くないことだ。これまで定年までの有期雇用が予期されていたからこそ、企業は従業員教育に投資し、自分の居場所を見出せない社員に対してケアしてきた。その誘因がなくなると却ってミスマッチが拡大する虞もある。
世の中のあるべき姿と、今どうすべきかとは分けて考える必要がある。そもそもロスジェネを生んだのは、金融自由化で企業が株主を強く意識した経営をせざるを得ない環境をつくりながら、従前の雇用規制を維持し、派遣業の規制緩和を行ったことに原因がある。
金融を自由化して企業が株主を重視せざるを得ない環境をつくるなら、その段階で労働契約法制を整備して、誰もが能力や立場に応じて等しく競争に晒される環境をつくるべきだった。財界と労組、派遣業界が談合し、株主を重視した経営のあおりを非正規労働者が集中して受ける仕掛けをつくってしまったことが大きな問題だ。
しかし先行きの読めない不景気の続く局面で雇用規制を緩和すれば、パニックに陥っている企業が必要以上に人員を放出し、労働市場をさらに混乱させてしまう。当面は現行の解雇規制を維持し、数年後の景気底打ちを睨みつつ、まずセーフティーネットの整備とキャリアチェンジ支援の強化、中等・高等教育に於ける進路指導の見直しを図ることが考えられる。
セーフティーネットの整備に関しては、特に製造業派遣2009年問題と関連して住居から放り出される人々が増えること、自治体間でたらい回しされてしまうことが予想されることを踏まえ、時限立法でホームレスに対する確実な社会福祉・定住支援体制をつくるべきではないか。
具体的には住所がなくても携帯電話番号など連絡さえつけば、自治体を介さず国から直接フードスタンプなどの社会保障を受けることができ、定住支援などの行政サービスから排除されない仕組みをつくることが考えられる。不正受給対策が課題だが、生体認証などを活用することで不正の誘因を十分に抑えることは難しくないのではないか。
キャリアチェンジ支援の強化だが、解雇規制があった時代であれば会社なり上司が従業員のキャリアパスに対して責任を持っていたのに対し、解雇規制が緩和されればそういったケアが不十分となることを見越して、会社に対して従業員のキャリアをケアすることに対する誘因を提供しつつ、そういったケアから排除された層に対して、行政が就業支援を強化することが重要だ。
会社と対等な関係を築くには、普段から社外の友達と緩やかな紐帯を維持し、できれば数か所から「いつでもおいで」と声をかけられていることが理想的だが、そういった私生活を送れる立場にあるひとは限られているし、誰もにそれを強いることは却って全体の労働生産性を損なう公算が大きい。
安心して働くことを通じて自分のスキルを深化させることができ、自分の築いたスキルと世間の需給とのギャップに早くから気付ける環境をつくるべきだ。正社員のキャリア・マネジメントをアウトソースする企業が増える可能性や、企業を超えたスキル管理のメンターとして派遣業者を位置づけなおすことも考えられる。
最後に、学歴と偏差値輪切りで概ね就職先が絞られるパイプライン・システムが機能していた時代であれば、世間を知らない高校や大学の先生でも進路指導できたが、これだけ時代に翻弄され、キャリアパスの不透明な時代にあって、彼らのアドバイスが役に立たない場合が増えている。中長期的には専門教育や職業教育の在り方そのものを見直す必要があるとして、落ち着くまでは社会経験が豊富で世の中の状況をみえている地域の人々が、子ども達のキャリアプランを支援できる枠組み等も必要ではないか。
いずれにしても、欧米で雇用の流動化が進んでいる背景には制度だけでなく、様々な非公式の職能社会、地域社会を通じた社会基盤があるのであって、そういった枠組みを理解しないまま雇用規制だけにメスを入れれば、かつて雇用の流動化なき金融の自由化がロスジェネを生んだように、多くの矛盾を社会で最も弱い層にばかり押し付けることになるだろう。
この不景気は雇用の流動化に当たって鶏と卵の関係を打破する、まずはセーフティーネット構築に手をつける好機となるかも知れない。