雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

実名ブログの矜持

このブログを開いてから実名と筆名と何度か揺れ動いたが、昨年のある段階から実名を使うようにした。契機は昨年の青少年インターネット利用環境整備法の動きに関連し、会社の手助けを借りて活動するようになった折、そこで知り得た情報をブログで取り上げる際に、本人とブログとが紐づいていないと相手に対してアンフェアだと感じたからだ。悩ましい決断ではあったが、結果としては良かったと思っている。
昨年の今ごろ参議院に呼ばれたときも、渡した名刺に書かれた会社のアドレスではなくブログに載せているアドレス宛に連絡があったから、ああ読まれているのだなと気付いた。考えていることを折に触れてブログに書くことは頭の整理になるし、僕が何をどういう風に考えているか、興味を持ってくれている人々と共有できることはコミュニケーションとして非常に効率的だ。分からないことを分からないと書けば、関係者からメールで教えてもらえることもある。
このブログは個人で書いているから会社名や肩書を載せてはいないが、実名を名乗っているから検索すれば簡単に分かる。僕がブログを書いていることは会社で割と知られているし、出入りしている役所のひとも読んでくれている場合があって話も早い。意図してポジショントークをしているつもりはないが、周囲の視線を意識しつつ会社との利益相反が起こらないよう気をつけて書いてはいるから、広い意味でポジショントークと受け取られても別に構わない。
もともとネット規制に対する関心は個人的なもので、わたしの本来業務ではない。しかし会社のリソースも使って勤務時間中に活動するに当たって、取り組もうとしている問題が会社のビジネスにとって重要であることを上司や同僚に説明し、時間を割くことについて納得してもらった。本来の仕事でシリアスな時期に、本当に懐の深い会社だと感謝している。
わたしが渉外活動に携わるようになったのは入社から半年ほど経った頃、Product Managerとして担当製品の出荷を終えて、渉外部門の立ち上げを手伝ったことが契機だった。このとき日本の大企業で技術渉外の責任者をしていた大先輩からは大反対された。「そういう腹芸を要する仕事は40歳を過ぎてからやればいい」と。
彼が心配してくれたのは、当時26歳だった私が若過ぎたので、米国本社のパペットに過ぎないと馬鹿にされるのではないかということだった。どうしても異動すると譲らなかったわたしに対して大先輩は「自分の言葉で話しなさい。それが立場的にできないようであれば、その仕事から離れなさい」と忠告してくれた。あれから6年、わたしは今もその教えを守っているし、幸い本意に反する主張をせざるを得ない局面には追い込まれずに済んでいる。
わたしはいずれ今の会社を転職するかも知れないが、日本から亡命する可能性はずっと低いから、会社よりも日本のことを考えて発言・行動してきたつもりだ。そう信じるかどうかは個々人の自由だし、本人が強弁したところで説得力に欠ける。諸々ブログを書くことは、過去の書き込みも残るし、読者を選ぶことはできないから結構なリスクだ。そのリスクを負ってこそ、仲間を広げて変革にコミットする機会も生まれてくる。ひとりひとりがリスクを負って重い筆をとるようになれば、日本も少しずつ今よりも開かれた社会になるかも知れない。
今はまだ責任ある人々の間で、ブログを書くことのリスクを便益が上回らない場合も多く、なかなか微妙な話が表に出てこない場合が多い。日本社会の中で考えを率直に述べることのリスクが十分に小さくなるかどうかは疑問だが、便益は少しずつ明らかになるだろう。
このところ政治家のブログが急激に面白くなって、マスコミからも注目もされるようになった。自分の考えを積極的に情報発信することの成功例が増えれば、リスクを負ってでも自ら考えを明らかにしようというひとは増える。これはバランスの問題だから、特異点を超えたら一気に流れが変わるかも知れない。これまでよりもオープンな場で重要なことについて合意形成が図られる可能性も出てくるのではないかと密かに期待している。

凄い正論だし、そういう議論はしっかり国内で積み上げるべきと思う。でも、国内産業・事業者や政策立案者向けにこの手の話で国際競争力を語りたいなら、匿名で月刊誌などに書くか、ジャーナリストを雇ってやるもんだ。完全にロビー活動だもの。正論だけど。 (略) 誠実な人から負けていくぜ。見事に。

そういう世知辛い世間を生きる知恵もあるが、だいいち卑怯だし、発覚すると寧ろ会社や担当者に対する信頼を損ねるのではないか。ポジショントークと蔑まれてでも堂々と発言した方が結果的にはリスクは限定的だし、情報や反応も多く集まる。それで逆恨みを買って負けてしまう奴は、結局その程度なのだろう。
この10年で役所の政策プロセスも驚くほどオープン化されたし、この流れはこれからも加速するだろう。立場やら情報を隠すことで得られる権力やらリスクヘッジもあれば、堂々と立場を明らかにして主張することで得られる評判やら影響力もある。どちらに重きを置くかはスタイルの問題だし、率先して新たな渉外のスタイルを確立していきたい野望もある。現実にはなかなか難しいけれど、昨年からの1年半で手応えは感じている。