雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

佐々木俊尚著『2011年 新聞・テレビ消滅』文春新書

献本御礼。新聞・テレビの抱えている構造的課題や、通信と放送の融合について整理した良書。豊富な実例を出してid:takorattaコンテンツ・コンテナ・コンベアという水平分業フレームワークを使って近年のメディア界の動きを再整理しているところが分かりやすい。佐々木俊尚さんのファンや、ネットにどっぷり浸かっているひとにとっては違和感のない主張だが、ふらっと本屋に立ち寄って刺激的なタイトルに惹かれて買う人の中には衝撃を受ける人も多いかな。元新聞記者が書いている点もタイトルと照らして刺激的だ。
唯一わたしと佐々木さんで見解の相違があったのは情報通信法に対する評価で、竹中総務大臣の頃に打ち上げた時の夢が残っている印象で「情報通信法」が地上波テレビ局の垂直統合を解体するかのように解説している。ちょうど「通信・放送の総合的な法体系の在り方<平成20年諮問第14号>答申(案)」が提出され、今月21日までパブリックコメントに付されており、ホワイトスペースの推進を盛り込まれた点など新しい方向性を打ち出しているものの、全体として地上テレビ放送のビジネスモデルには影響しない内容となっている。
そもそもテレビの砦は放送免許の他は、情報通信系の業法ではなく商慣行や著作権法であったりするので、業法をいじればネットでの配信が容易になるという話では必ずしもない。いずれにしても本書でも言及されている通り、広告収入の長期減少傾向を考えると新メディアへの取り組みは加速せざるを得ないし、コンテンツ制作の担い手を支えてきたエコシステムが崩壊しつつある情勢は動かしがたく、全体の議論への影響は小さいだろう。
ネット規制の論点も「総合的な法体系」のコンテンツ規律から、昨年の青少年ネット規制法、いま衆議院で審議中の児童ポルノ法に前線は移り、さらに実際はSNSサイト運営事業者への圧力、アダルトゲームのP2P放流や児童ポルノへのリンクで逮捕者が出るなど、制度整備よりも捜査現場による法律の拡大解釈が新たな前例をつくる情勢にあって、何を議論しても詮無い雰囲気となっている。個人的には警察法第二条2と照らして如何なものかという気もするが。
こうやって空気で物事が動いていく流れをつくっているのも新聞・テレビなのだが、マスコミが経営的に行き詰まり政局が流動化する中、この先の空気は誰が醸成していくのか、次の時代へ向けたジャーナリストらしい洞察が欲しかった。本当にITを通じて個々人が緩やかに連携しつつ影響力を発揮するミドルメディア主体の世界は来るのだろうか。記者クラブ制度の廃止を明言した民主党が、一方で衆院選へ向けたマニフェストを金庫で厳重に保管し徐々に記者にリークしているのをみて、情報と権力の微妙な関係って一筋縄ではいかないと感じる。
いずれtwitter議員からtwitter首相が現れて、twitterで解散を呟いたら数分後にテレビ速報され、一通りブログで論評された翌朝の朝刊1面トップみたいな時代が来たら情報の流れが完全に逆転するのだが。