雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

人材の流動性って強引に高めるべきか

どうも日本でベンチャーが育たなかったのも、会社員の多くが自由にブログを書けないのも、ロスジェネが生まれたのも、みーんなホワイトカラー上層の流動性が低いからってのは分かっているんだけれども、それって政策的に流動化できるものなのか、仮にできるとして政府がそれをやるべきか、みたいなところは議論が尽くされていないんじゃないかな。

というわけで、一見遠回りに見えるかもしれないが、最大の雇用対策とは労働市場の改革である。バラマキ自体は全否定はしないが、せめて一定の流動化とセットにし、成長につながるような形で給付すべきだ。

リバタリアンの一部は整理解雇の4要件やら解雇権濫用法理が日本の雇用を歪めてきたのだと主張するが、整理解雇の4要件を見直す判決は出ているし、解雇権濫用法理で実際にどれだけホワイトカラー上層の雇用が守られているかとううと疑問が残る。この10年近くのリストラで民間企業の多くはそこまで余剰人員を抱えなくなったし、労基法の介入を受ける労働条件の悪いセグメントは以前から雇用の流動性が高かった。ホワイトカラー上層でも外資やらIT業界はそれなりに流動性がある。
労働市場流動性を担保するにはいくつかの条件があって、成長段階にあり十分な数の空きポジションがあること、募集に対して条件に合う人材からの応募があること、スキル・ポータビリティが高いこと等。今なおIT業界は条件を満たしているが、そうでない業界も諸々ある。本来であれば流動性が高い業界でも、これだけ景気が悪いと再就職先はなかなか見つからない。
雇用調整助成金ゾンビ企業やら正規雇用の既得権を維持するために利用され、非正規雇用との差別を助長しているという見方があって、企業として雇用の継続が難しい場合も補助金で雇用を継続して下さいという施策は、既に正規雇用にある者を失業やら非正規雇用に転落させない仕組みで、彼らが予定通り無業または非正規雇用となった方が、既に無業または非正規雇用となっているひととの競争条件の平準化を図れるということはあるだろう。
厳としてキャリアの空白に対する厳しい差別がある中で、彼らが非正規雇用に転落してしまうことは、仮に雇用の受け皿があった場合でさえミスマッチとなってしまう、つまり直近まで正規雇用だったひとしか採る気のない企業にとって、そういった人材を採ることができないからといって敷居を下げるとは限らないし、そういったミスマッチを減らすためにも雇用調整助成金は機能しているのだろう。税金で格差を固定化するとはとんでもないと捉えるか、それが失業率を抑える政策手段として効率的な支出であれば一概に否定すべきではない、いま打てる手は打った上で、就業差別やら格差是正は別に考えましょうというのも見識だ。
人を採るというのは解雇できようができまいが大きなリスクだから、国を問わず様々なビヘイビアがシグナルとして機能してしまうのは致し方ないことで、それは時に偏見であったり、世代的な状況の違いを無視した乱暴な分類である場合はある。腹立たしい話ではあるが、彼らの内心を政策で変えることは非常に難しい。米国流に年齢・性別などによる差別を厳しく禁じ、そういうことをやった企業から賠償金を取るという考え方もあるが、コストもかかるし実際に機能するかどうか疑わしい。
ホワイトカラー上層に於ける雇用の流動性の低さが世代間の機会均等を損ね、産業構造など様々なこの国のかたちを規定し、欧米の施策を移植しても同じようには機能しない大きな理由ではあるのだが、それが労働者の職業倫理やら、採用担当者の価値観によって形成されているとすると、政策を機能させるために強引に流動性そのものを触れることは現実には難しい。具体的にどんなやり方があるのだろう。
労働基準法の条文に問題があるならば話は簡単だが、そういった構造が裁判所の判例やら、社会の価値観や慣習によって担保されている場合、短期間で政策にできることには自ずから限界がある。ひょっとして役所の仕組みが大企業の人事制度のモデルとなっているようであれば、公務員人事制度改革の行方如何で流動化時代へ向けた人事制度のモデルとなるのだろうか。逆にホワイトカラー上層の流動性が高まらない限り、天下り見直しも職員を抱え続けるしか途はないが、それはそれで官民の公平性に欠けはしないだろうか。