雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

京速計算機を巡る論点

ブログ界隈で話題となった京速計算機について、菅副総理が復活に前向きという。事業仕分けでの議論があまりに低次元だったので、これを機にきっちり論点を整理できることは貴重な機会だ。研究競争を勝ち抜くために高速なスーパーコンピュータが必要なことは論を俟たないが、Linpackで1位を取ること自体を自己目的化しては説得力に欠けるし、スパコン自体の必要性と演算装置の国産化とは分けて考えるべきだ。GRAPEの牧野氏が指摘しているように「世界一になるのに1100億どうしても必要なのか」こそ本来の論点ではないか。

松井さんといったところからは、「世界一である必要はあるのか」という質問がでていましたが、本当に質問するべきことは、「世界一になるのに1100億どうしても必要なのか」ということであったのではない かと思います。メモリバンド幅やネットワーク性能とか色々考えても、高々10Pflopsに1100億は 2012年の数字としては高価にすぎ、この性能当りで高いということが日本の計算科学の将来に明らかな悪影響をもつからです。
悪影響というのは、要するに、同じお金で遅い計算機しか使えない、ということです。結局、計算機に使えるお金自体がさして増えるわけではないので、値段当りの性能が低く留まっては多少大型予算がついてもなんにもならないし、将来にもつながらないわけです。

Intel, AMD, Cray等のロードマップから推察してIntelなりAMDMPUを使えば同時期に400億円弱で10Pflopsが手に入る。手元のPCでノード単位の最適化も容易になるし、今回のTop 500でトップを飾ったORNL Jaguarのように後からMPUを入れ替えての高速化も容易だ。
今回の見直しに対して完成を1年も遅らせては性能で2〜3倍の差がつくとの批判があるが、演算装置が出来てからスパコンを建造という順序では、完成時に演算装置の性能が1世代、2世代は遅れてしまう。内製にこだわることで費用対効果が半減して将来の拡張性も損なわれるとすれば、相応の説明が求められるだろう。
米国が日本勢に負けたCrayを支援した際に言い分にした国家安全保障や、高速演算装置の技術競争から脱落を避けるために国産ベンダーを支援することも政治的な判断としては考えられるが、科学技術のために最先端のスーパーコンピュータが必要という議論とは分けるべきだ。その場合も半導体のロードマップや市場環境・アーキテクチャの変化を見越した大局観と中長期の戦略を求められよう。
その辺をごっちゃにして推進したものだから担当官たちも方向性を見失い、事業仕分けでも初歩的な水掛け論で言い負かされてしまう。京速計算機の計画を凍結したから民主党は科学技術政策に消極的だという議論は短絡的ではないか。来年度以降の予算案に反映できるような建設的な議論ができるだろうか。