京速計算機について整理と疑問
仕分けから2週間ちょっと経って落ち着きつつあるが結局スパコンはどうなるんだろうか。著名人が反対声明を出せば見直されるという前例となっては何のために仕分けたか分からないし、まあしかし事業仕分けでは大事なことが何も論じられていない訳で、検討に必要な材料は整理しておく必要はあるかと。
満額復活が決まったわけではない
事業仕分けの結果を受けて行政刷新会議や国家戦略室が政治的に再検討することになっている。計画が原案通り復活するとも、何らかの見直しが入るとも、廃止するとも決まったわけではないと理解している。
NEC・日立が撤退した影響は限定的
ことLinpackベンチマークのTop 500で1位をとることに目標を限定すれば、ベクトル方式から撤退してスカラー型に絞ることはプラスに働くし、瞬間的に世界トップをとれる公算はそれなりにあるのではないか。しかし地球シミュレータで開発された気候変動計算アプリケーションなどを移植した場合に期待したパフォーマンスが出るかは、やってみなければ分らない。
GPUクラスタの方が安いのでは
Gordon Bell賞をとった長崎大学のGPUクラスタはN体問題の解決には使えるけれども、メモリ帯域等の問題からLinpackで好成績を収められるかは分からず、ましてや気候変動計算に使えるとは考え難い。
海外から買うとかIAで組んだ方が安く輸出機会があるのでは
PC向けMPUに対する性能需要が頭打ちとなっている。メモリ帯域幅のバランスをみるとIntelやAMDのMPUと比較してSPARC64VIIIfxの性能は悪くない。但し2011年時点の半導体技術を考えると、32nm、28nmくらいを想定してシュリンクしないと厳しいのではないか。将来のロードマップがないとチップ交換によるアップグレードを期待できない。とはいえ現実には外販需要が見えない中での追加投資は厳しいだろう。
外販・輸出の可能性はあるか
製品として費用対効果が高く、エコシステムを形成できれば外販の可能性はある。スパコン自体の性能とは別の問題として、SPARCアーキテクチャがOracleによるSun買収が欧州独禁当局の介入で宙に浮いたために将来が不透明となっている。スパコンでアーキテクチャ依存の最適化をどこまでやるかという話もあるが、顧客の不安を解消しないことには法人向け拡販は難しいかも知れない。
自前でつくるより海外から買った方が安いか
表面的なコストだけ考えるとCray等から買った方が安い可能性がある。しかしプロジェクトの遂行に当たり、ベンダー側が応分の負担をしている公算が大きく、それらを補償してなお海外から購入した方が安いかどうかは疑問が残る。補償すればそれなりに乗ってくるし、契約を厳密に解釈してベンダーへの補償を渋ったとして、民間が政府の構想や約束を信用できなくなることの将来的な悪影響も無視できない。