意外と身近な戦争の遺産=住民票を例に
終戦記念日に因んでという訳でもないが、ひとつ面白いなあと思ったのは戸籍と住民票についての話だ。住民票がいつからあったかと聞かれて、ちゃんと答えられるひとは少ない。わたしが知ってて法務省に質問した時も下記のような回答があった。
○楠委員 初歩的な質問を3つほどさせていただければと思います。
私は素人で、最初は住民票と戸籍の違いは何だろうというところから勉強を始めたのですけれども、そもそも日本において法的身分関係と居住関係というのを別々の省で所 管してばらばらに管理している理由というのはどういったところにあるのでしょうかとい うことが第1点です。 (略)
○前野参考人 今現在別々になっているということですけれども、昔は住んでいるところですべてを管理するということだったんです。ただ、人の移動が激しくなってきたとい うところで、身分関係は把握できるのだけれども、いろいろなところに住んでいらっしゃるということで、居住関係がすべてを追えるわけではなくなってきたというところがありまして、居住関係は別に登録しましょうということで、住民票は分かれていったという経緯があります。
法務省の回答は大まかに間違いではないのだが、あまりにふわふわした回答だったし、鉄道による移動や都市生活者の増加は明治後期から増えていたはずで、あまり納得できず改めて諸々調べたのだった。「住民票」なる語が登場するのは戦後の昭和26年の住民登録法である。しかしその原型は昭和15年、配給が始まり実施のために町内会単位で法的根拠のないまま草の根的につくった「世帯台帳」に端を発している。「世帯台帳」は配給だけでなく様々な行政サービスに活用されていたが、戦後復興が進んで配給がなくなれば根拠を失う。その前に「世帯台帳」の法制化を求める自治体に対し、戸籍を管理している法務省は、戸籍との整合性を確保するために寄留制度と擦り合わせるかたちで住民登録法を制定し「住民票」となったのである。後に昭和46年の住民基本台帳法で「住民票」は法務省から自治省に移管された。
寄留の概要はWikipediaに詳しいが「住民票」以前は戸籍とは別の居所の把握は「寄留簿」によって行われていたものの、この寄留簿が手続きは煩雑な割に行政サービスと結びついておらず、届け出る誘因が小さいために、実態に即して更新されていなかったようである。それが配給という住民の死命を制する行政サービスが必要となった時に顕在化して草の根ベースの実態に即した「世帯台帳」を必要としたようだ。

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