雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

青田買いの何が悪い?

僕は以前から新卒一括採用に疑問を持ってたし、僕自身、前の会社は20歳で大学2年の終わりに入社したんで、ユニクロが選考する学年を問わないと発表したことに喝采を送りたい。当面は採用時期を遅らせ、いずれは通年採用とかヌルいことをいってる経団連とは大違いだ。現場を持つサービス業を中心に追随する動きが広がるのではないか。

現在、同社は国内では年1回採用を行っている。新しい方法では、採用時期を通年とし、選考する学年も問わない方式を検討している。

と、思いきや、下の段まで読んで、ちょっとした疑問も。

具体的には、1年生の時点で採用を決め、在学中は店舗でアルバイトをしてもらい、卒業と同時に店長にするといったコースが想定されるという。

これってどう読めばいいんだろう?大学1年生の時点で採用を決めるって内定を出すって意味?在学中の数年間もアルバイトしてもらい、卒業と同時に店長、うーん、うーん。在学中のアルバイト期間を職務経歴として評価し、飛び級で店長にするという点がポイントなのかな?内定というのは法律上は始期付解約権留保付労働契約といって、卒業後に雇いますよ(始期付)ひょっとして雇わないかも知れないけど(解約権留保付)ってことらしい。これを最大4年間も引き延ばすというのは労働法上どうなのか是非とも専門家の意見を聞いてみたいとこだけれど、記事中では内定ではなく採用といってるんで、単に息の長い始期付労働契約(解約権留保無)なのかも知れない。現実には経済状況なんて変わるんだし、成長している企業ほど業容拡大のペースが鈍ったところで採用は大きく影響を受けるだろうから、中長期で考えた場合に解約権留保の有無にどれほど現実的な意味があるのかは分からない。
分からないところはすっ飛ばして実際問題として、純粋に学部の早い段階でユニクロで採用が決まるというのは学生にとっていいことなんだろうか?良さげな点としては短時間の口頭での面接と比べて一緒に長時間働いた方が、実際に現場での協調性があるのか、観察力があり業務改善に繋げて行けるのかとかを評価しやすいし、シューカツに於いてはやや口下手だったり就職マニュアル本とかに騙されやすい学生であっても、本来の実務能力を発揮し評価されやすいかも知れない点がある。短時間の面接で似たような人材を偏って採ってしまうよりは、実務を通じて長時間の多面的な評価で採否を判断することは企業にとっても本人にとっても悪い話ではない。
しばしば早い段階で採用を決めることについて青田買いだとか、そんな早い段階で自分の進路を決めて大丈夫なのかとか、大学1年で採用通知を出すんだったら高卒を採ればいいじゃないかといった批判もある。世の中には内定時に他の会社を断らせるだとか、内定を辞退しない旨の誓約書なり内定承諾書を取るといった不思議な風習があるらしいのだが、労働基準法第16条で「使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、 又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない」と定めており、こういった契約に法的拘束力はない。従って例えばユニクロから大学1年で採用されたところで飛び級店長として入社できる幹部候補生としての資格は約束されても、卒業後にユニクロに就職しなければならない契約上の義務を負うことはない。もちろん採用された後にシューカツのためにシフトを配慮してもらうとかは難しくなるだろうが。
そして早い段階で就職が決まることで学生が勉強しなくなるのではないか?といった心配は、そんなに早く採用される優秀な学生について杞憂なんじゃないかと信じる。だいたい学生は進路についてそんな明確な目的意識を持っていないことが多い。大学3年の途中から業界研究を始めるとして、だいたい学業は学業、シューカツはシューカツ、そして決まらないシューカツに焦り始めると学業が疎かになってしまうのではないか。あんまり意識し過ぎてもズレちゃうだろうから、無理に意識しない方がいい気がする。
仮に僕がユニクロで大学1年の途中から採用されたとして、無我夢中で仕事に打ち込んで学業が疎かになるだろうか?うーん、現に僕はズブズブとIT業界にのめり込んで、大学に通わなくなってしまったし。まあ大学1年にしてユニクロで採用されるんだから僕より優秀な学生を仮定しよう。もちろん現場でテキパキ仕事することも大事だが、それじゃ先輩や他のアルバイトと差がつかない。何しろ将来の飛び級正社員=幹部候補生である。入社前から周囲に差を付けるんだったら学業の時間を削ってアルバイトに充てるより、これから成長の予想される言語圏のコトバを第二外国語で取るとか、経営学やら労務管理・財務について一通り勉強する、サプライチェーン周辺の情報技術とかデータ分析も齧ってみるかと、入社してから学ぶのは大変な、けど会社の事業にとって必要となる知識を習得するのではないか。
これは極めて楽観的な予測ではある。現実には採用の決まった学生を育てられる度量を持った店長がどれだけいるか、やってみなければ分からないし、僕のように仕事優先で学業が疎かになる者も少なからず出てくるだろう。採用承諾書に署名した学生は労働基準法のことなど不勉強で実質的に拘束され、シフトを自由に組めずシューカツから閉め出されたり、景気悪化で約束通りの店長にはなれず、それどころか採用を取り消されてしまうかも知れない。仮に成長著しいグローバル企業ユニクロで成功しても、ユニクロを追っかけて似たような制度を導入した後発企業では学生から搾取するだけで終わる可能性も考えられる。それでも僕は通年採用より柔軟な、学部学年を問わず採用するというアイデアに魅力を感じる。
何より早く採用されれば学生が進路が決まらないことの不安から解放されて他のことに打ち込めるし、労働者としての主体性を持つことで学業に対する目的意識が高まり、限られた時間の中で効率的に必要なことを学ぶ誘因が生まれる。いろいろな時期バラバラに内定が出ることが前提となれば、今のような短期集中の口頭試問よりも時間をかけて仕事を通じて人格本意で採用でき、ひとつひとつの選考に要する時間が増えれば決まった学生ばかりに内定が集中する弊害も解消できる。そしてホワイトカラー中心のブランド企業ばかりでなく、現場を持ち多くの雇用を抱えるサービス産業が優秀な人材を採用できる可能性が高まるのではないか。懸念される青田買いに対しては現行の労働基準法第16条で既に手当されている。
企業が何としても優秀な人材を学部在籍中に囲い込みたいのであれば、誓約書のような姑息な手段ではなく、学部の間に入社させてしまって学費を奨学金として貸与しても良い。奨学金を出すかはさておき何年間も中途半端な立場でアルバイトさせるよりは、入社そのものを前倒しする方が学生にとっては望ましい。恐らく労働時間の関係やら福利厚生のコストが馬鹿にならないので学生の間はアルバイトとして雇いたいのだろうが、この辺は我が国の社会保障制度の歪みに起因するところであって、新卒一括採用の問題とは別に中長期的にフェアな制度へと組み立て直す必要があるのだろう。