雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ソフトウェア産業の技術革新と特許に対する私見

この件については貝になるつもりだったんだけど,だいぶ前にAISTの首藤さんからMixiコミュニティ「ソフトウェア特許うざい」のinviteがきたり,そろそろ発言する時期かなぁ,と思い書くことにする.ぼくは個人的に,2つの理由でソフトウェア特許に賛成する.賛否はともかくとして,前々からうざいとは思っていたのだけれども,特許とはソフトウェアに限らずうざいんである.取るのも,使うのも,調べるのもうざい.レスポンスのクソ重い特許電子図書館に始まって,とても日本語とは思えないヘンテコな請求項を読むと,イライラしてくる.
特許庁はまず特許電子図書館Googleにアウトソースしてはどうだろう.システム投資の削減とAdSenseで儲かった分,特許審査の人員を増強し,審査を迅速にしてほしい,と閑話休題
で,特許はうざいがソフトウェア特許に賛成する理由のひとつは,ソフトとハードの境界が曖昧で,両者を区別するのが馬鹿らしい,ということだ.例えばソフトで実装されたコーデックを特許として認めない場合,Reconfigureble LSIFPGAにそのコーデックを実装するのはどうかとか,チップに落とす場合にC言語設計とVerilogとWired Logicで区別するのかとか,「バナナはおやつに入るんですか」的な話が山ほどあって,阿呆らしくてやってられない.
特許制度が制度疲労を起こしているのはイノベーション・サイクルの短期化に対して,司法を含めて特許の制度や運用が追いついていないからであって,ハードかソフトかなんて本質的な問題ではない.ソフトウェア特許を名指しして排撃するのは,八田さん名付けるところのストールマン主義者と,80年代初頭のソフトウェア権論争のトラウマが連綿と語り継がれているMETI方面である.
もうひとつは,独占利潤が研究開発に注ぎ込まれる根拠として,特許がとても重要だからだ.ものすごくアバウトに歴史をくくると,AT&Tが電話の独占利潤を投資してKen ThompsonやDennis RichieがUNIXをつくったことから当時ベンチャーだったDECのミニコンが売れSun Microsystemsを筆頭にUNIX WSベンダが創業し,Xeroxコピー機の独占利潤を投資してAlan KayたちがGUIをはじめとしてオブジェクト指向,PDL,Ethernetを発明したことでAdobe3Comが創業し,パソコンがブレイクしてAppleMicrosoft, Intelが潤った.
つまり,独占企業は結果的にみれば特許によって次の世代の主要プレーヤになれていないけれども,彼らの投資は次世代を築く上で非常に重要だった,ということがいえるのではないか.もし特許が認められなければ,我が世の春を謳歌する独占企業の利益は,次の破壊的技術を育む研究者・技術者たちの食い扶持よりも下らない宣伝やベタな営業に使った方がROIが高い,ということになりはしまいか.
個人的には資金・営業力の両面で強い独占企業が,豊富な資金で重要な新技術を開発し,知的財産権をばっちり押さえたとしても,なかなか破壊的技術に適応できない現実にもとても興味があるけど,これは特許制度の問題ではなくて,クリステンセンが『イノベータのジレンマ』で論じたような経営の問題なので,ここでは深く立ち入らない.