雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ネットよりも記者が頼りにならない時代

記者よりもネットデマが信用される時代 | 日経 xTECH(クロステック)』という記事を読んだ。名指ししてはいないが『佐川急便の不正アプリ対策でトレンドマイクロがバッシングされた真相 | 日経 xTECH(クロステック)』が炎上した件で、Hiromitsu Takagi (@HiromitsuTakagi) | Twitterの批判が信じられているのが気に食わぬご様子である。メディアの役割として「事実の検証」「裏を取る」ことが大事で、「記事の説得力がネットデマよりも劣っていた…記者の力不足」とまとめていて殊勝だが、どうやら高木氏のTwitterでの指摘を「人々が信じやすいデマ」と位置づけたいらしく、頭を抱えてしまった。

昨日「親しき仲にもスクープあり」と公言して憚らないジャーナリストの大先輩と飲んで、昨今の出版不況でジャーナリストを育てる仕組みが壊れてしまった、これを再興しなければならない。最近の若手ライターは「裏を取る」ことを教えられていないが、こういうところから変えていかなきゃならないという話になった。

氏によると世の中の記事の多くは諍いで、そこで「裏を取る」とは双方の言い分を取材して、事実と突き合わせて物事を立体的に捉えることであるという。わたしのようなTech系ライターだと手元で実装を動かすこと自体が裏取りになることもあるが、週刊誌ジャーナリストなんかは「諍い」を扱うので「双方の言い分を聞くこと」こそ「裏取り」になるのだと腑に落ちた。

炎上した記事を書いた齊藤記者は記事中でトレンドマイクロの担当者を取材し、その内容が事実と相違ないか確認しただけである。バッシングした側をちゃんと取材していないし、論議を呼ぶ契機となったNHKの取り上げ方についてもカバーできていない。ちゃんと裏を取れていないのである。

これは齋藤記者の言い分だけ聞いて、Twitterでの炎上を「人々が信じやすいデマ」と切り捨てた大森記者も同様である。炎上と書いて対立構図があると分かっていながら、同僚記者の言い分しか聞かずに、対立する意見をネットデマと切り捨てているのだ。

著者のひとりとして日経xTECHが、よもや広告主の要望でヨイショ記事を出すような媒体ではないと信じているが、どうやら若い記者の間で「裏を取る」の意味が従前のジャーナリズムと違うのだとしたら、それはそれで困ったことである。

このブログエントリーも双方を取材しないで書いたコタツ記事だから同じ穴の狢ではあるけれども、書き殴ったブログで記事ではないし、あちらはネットデマで、こちらは報道だとイキるつもりもない。みんなフラットなインターネッツで信じたいコンテンツを信じなYO! 閑話休題

Androidスマホにセキュリティ対策ソフトが必要か、野良apkのインストールをユーザーに強いるのが適切かといった話は、パスワードの管理方法と並んで専門家によっても意見が分かれるところで、ポジショントークでない言説を拾うのがなかなか難しい。これからも火種になり続ける問題のひとつで継続的に追っかけていきたい。

様々な攻撃手法が出る中で、報道機関は攻撃のトレンドやメカニズムを理解するために専門家の力を借りる必要があって、そういった方々は往々にしてセキュリティ会社に所属している。それぞれのセキュリティ会社は様々な利害があって、売り込みたいネタや触れたくない事情もある。そういった背景を理解した上で取材できる記者であれば専門家の力を借りなくても記事を書ける訳で、悩ましいジレンマだ。

日経xTECHは専門媒体として、一般メディアよりはセキュリティ・ベンダーに頼らなくても掘り下げて技術解説できるポテンシャルがあると信じるので、是非とも見解に相違があるような事案があった際には様々な立場の専門家にリーチし、しっかりと「裏取り」した質の高い記事を掲載いただきたい。