雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

技術の流れを読むには安全保障への理解が不可欠

isedで話したことのfollow-up.技術革新はあちこちで起こっているけれども,20世紀の重要な発明の多くは軍事予算から生まれている.コンピュータも,ジャンボ機も,パケット交換網も,超高速無線技術(UWB, CDMA)も,みんな軍事研究から生まれてきた.だから,これからのIT技術の流れを読む上でも,安全保障を押さえない訳にはいかない.
なぜ超音速旅客機の研究開発が滞ったか.エネルギー・環境問題もさることながら,偵察機偵察衛星に取って代わられて,膨大な開発費をファイナンスする理由がなくなった.Semantic WebもRoboticsも,RMAなどの関連でファンドがついているようだ.
isedでは半導体や記憶装置の性能の伸びがサチれば情報一辺倒の技術革新も見直されるかもしれないという話をしたけれども,対テロ戦争の時代にはOpen Source Intelligenceが重要となるので,並列コンピューティングや検索技術,画像認識・音声認識・移動識別などへの継続的な投資は引き続き行われる可能性が高いのではないか.BRICsが台頭してくることを考えると,エネルギー・食糧の領域も安全保障上の重要性が高まろう.冷戦時代と違って,重工業系の巨大プロジェクト話にはなりにくい.
安全保障関連の研究から大きな発明が生まれるのは,カネ払いがよく,技術的な要求水準が非常に高く,成果に厳しいからだ.大きな補助金が動く以上,いろいろとキナ臭い動きも大きいのだけれども,産業振興や実証実験と比べれば,変なものを納品すると国益や人命に関わるので,規律を維持しやすい.誰も困らないから報告書の厚さを競ってお茶を濁すことが最も合理的な行動となるのであって,いい加減なものを納品したら兵士が死んだり戦争に負けるかもしれない,という話になったら,大概の小役人だって業者との馴れ合いは程々に,もうちょっと身を入れた仕事をしようというものだ.
米国で研究開発型ベンチャーの層に厚みがみられる理由のひとつは,防衛産業のエコシステムと,それを民需転換する仕組みがある.日本も1960年代にそれに気付いてIPAをつくった訳だけれども,あまりクリティカルなアプリケーションを対象としないから,成果物に対する規律やガバナンスが機能し難い.ちょろちょろと補助金を出すのではなくて,突飛な技術を必要とする実用的なものを,品質に拘って高い価格で買い続ける仕組みをつくらないと,いつまで経ってもIT技術の基幹領域では米国に負けてしまう.
起業促進も必要だが,必要なのは供給や資本や投資ではなく需要なのである.資本や投資・補助金は,どうしても回収を期待できる技術革新には向かうけれども,ハイリスク・ハイリターンの発明には向かわない.1000に3つの技術に賭けて,なおかつ垂れ流しっぱなしにならないリスクマネーが必要だ.
アナログ・製造業の時代はカイゼンの積み重ねでトヨタGMを超えることができそうだけれども,デジタル・情報業の時代は先に発明し,権利を押さえたものが勝つ.安全保障の話をするとどうしてもタカ派っぽい響きになってしまうけれども,どうにか近隣諸国の不安を煽らないカタチで,日本でもガバナンスの効いたインベンション・マネジメントを働かせる仕組みを考える必要があるのではないか.知財戦略にせよ科学技術戦略にせよ,重点領域の優先順位を巡る綱引き以前に,やるべきコンセプトワークがあるのではないか...