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ぼちぼち再開しようか

ITもバブルへGO!! - BTRON編

昨日はテレビで『バブルへGO!! タイムマシンはドラム式』をみた。広末かわいいー! とても子供を産んでるとは思えないー!! あのバブル描写は流石にデフォルメだろ。まぁ自分はその時代お子様だったので分からないんだけどね。あまり筋を書くとネタばれになるので控えるが、ああいう陰謀論をみて金融政策の総量規制に当たるバブル時代の情報通信政策の蹉跌が何だったか考えてみた。
バブル時代でITというと日米構造協議だ。正史ではTRONが日米構造協議で槍玉に上げられて頓挫したことになっている。変なのはそもそもTRONが国家プロジェクトではなく、大した予算もつかなかったにも関わらず、後世になって実際に数百億円も投じられた第五世代やシグマと同列に扱われがちなことである。これは明らかにおかしい。その前後でIPAは数千億円単位で補正予算による補助金を研究開発に投じているが、これらは日米交渉で槍玉には上がっておらず明らかにアンバランスがある。
ところで評伝でTRON阻止に動いたと公言しているのは孫正義氏である。BTRONには標準でワープロ表計算機能などが含まれており、ソフトバンクが流通を握っていたアプリケーション・ソフトウェア市場を潰す可能性があった。またBTRON構想を担ぎ教育パソコン標準というアイデアで文部省にアプローチしたのは松下電器産業で、それに反対したのはPC市場で寡占的シェアを握っていたNECである。教育市場にもPC-98を売り込みたかったからだ。Wikipediaにはマイクロソフト日本法人の関与を指摘する記述があるが、古川享氏は米政府を使った影響力行使には反対したと話している。
もし僕が当時ソフトバンクNECの渉外担当だったら、通商産業省に対しては「文部省が教育パソコンの調達仕様というかたちでパソコン市場に介入していますが、教育市場で実業界と異なるパソコンが使われることには問題がありますし、パソコン向けソフトウェア市場の健全な成長を阻害します。助けてもらえませんか」と相談するだろう。またマイクロソフトに対しても「教育市場をTRONに取られても困るでしょう。DOSだけでなく、MultiplanやEncartaも売れなくなりますよ。日本のパソコンソフト市場を守るために共闘しましょう」と提案するだろう。どんなシナリオを誰が書いて、どの話に誰がどう乗ったかは、いずれ公文書で明らかになるかも知れない。
BTRONの件は米政府にとってメインフレームやスーパーコンピュータ等と比べて全く死活的な問題ではなかったから、タイムマシンでバブル時代に戻って然るべきロビイングを行えばスーパー301条の適用を避けられた可能性は考えられる。とはいえ両陣営で当時の関係者が活発に動いた結果だから、ひとりふたりタイムマシンで送り込んだところで変えられる話かどうかは怪しい。
また仮にスーパー301条の対象製品とならず、小学校向け教育パソコン標準としてBTRONが選ばれていたとしたら、市場への影響はどれくらいあったのだろうか。BTRONが教育用パソコンとして一定の地歩を確立したところで、ビジネス市場に入るには業務ソフトなどの移植が必要で、すぐにPC-98の優位が崩れたとは考え難い。しかもその数年後、DOS/Vの登場で日本市場が本格的に開放されたことは周知の通りである。
従って、仮にBTRONがスーパー301条で刺されなかったとしても、恐らくは短期的に90年代前半の小学校向けパソコン市場で松下電器のシェアが少し高まるだけで、DOS/V以降の歴史は大きく変わらなかったのではないか。また仮にi-mode携帯電話並みにBTRONが大成功し、学校だけでなく企業や家庭に入ったとしても、PDC携帯電話と同じように技術的に輸出できなくなってしまった公算が高い。東芝のノートPCの世界シェアが少し下がったか、否、もともと東芝は日本仕様(J3100)と世界仕様(PC/AT)を開発していたから、世界シェアに大きな変動はないか。OSから違うとなると開発費の重複は大きくなるが。
もし僕がたまたまタイムマシンを発明してバブル時代にロビイングに行くにしても、BTRONのスーパー301条適用阻止とは別のミッションを考える必要がありそうだ。

参考文献:
http://ja.wikipedia.org/wiki/BTRON
787−1.Bトロンで行こう
孫正義 起業の若き獅子