雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

はてなの競争環境とオープン化戦略の成否

「何でもオープンにすることについて(つづき)」で,はてなが顧客からの要望から開発プロセスから何から可視化していることについて,梅田氏が迷いつつも「面白そうだからこのままつっぱしってみるか」と書いている.ぼくははてなRSSリーダにOPMLエクスポート機能がついていることに驚いて以来,はてなの非データロックイン戦略の成否について考えたのだけれども,いまではこの戦略がかなりうまく行き得ると感じているし,その理由について少し踏み込んで書くことにする.
イデアをオープン化することについて一般的に考えられる懸念は,「はてな」のオープン戦略でnefuraさんが書かれているように「完全にブラックボックスにしないと大手企業に同質化されてベンチャーは潰れてしまう」ということだ.はてなにとってこのリスクは充分に小さいのだろうか.
はてな」のようにコミュニティ・フィードバックを積極的に取り入れ,質問回答や日記などのユーザー・クリエイテッド・コンテンツに大きく依存する企業にとって,競争力を大きく左右する要素のひとつに情報発信者の質がある.質の高い言論空間を維持することによってさらに良質な情報発信者を呼び込み,既存の情報発信者を繋ぎとめる必要がある.この点で,はてなの業界に於けるポジションを出版社に例えると,圧倒的なリーチを持つYahoo!集英社(少年ジャンプ等)に対する岩波書店のような立ち位置ではないか.「Yahoo!知恵袋」や「教えてGoo」など大手企業からの競争に晒されるけれども,良質な情報発信者と,彼らからの高い評価さえ確保できていれば,その領域での競争を優位に進め得る.
はてな」の非コモディティ化は,良質なコミュニティ,ASP故にコード公開の必要がないこと,利用者の溜めた日記やアンテナ等のデータがある.いわゆるオライリー・シフトだけに着目すると,データロックインしない戦略は非常に奇異に映るけれども,はてなにとって最も重要な差別化要素がユーザー・データやコードではなく,はてなコミュニティの質にあるとすれば,レピュテーションを高めるために利用者の自己決定権を尊重し,WebサービスAPIの公開を通じてエコシステムを形成し,フィードバックを通じて「一緒にはてなをつくっている感」を醸成することは,極めて合理的な経営判断なのかも知れない.そしてこの選択は,ユニークユーザー数を巡って熾烈な争いをしているポータル各社からみると,真似することの極めて難しい差別化戦略となり得る.はてなを後追いし,追い越せるほどの効率性を持った組織は少ないし,仮に露骨な真似をできたところで専門家コミュニティから,はてな以上のレピュテーションを得ることは難しいからだ.しかも,自分の要望がはてなに反映されたという体験までは,どう頑張っても真似ることはできない.はてなのオープン化戦略は実は「サービスを共に創る」という換え難いコンテクスト・体験の蓄積を通じて,情報発信者に対する究極のロックイン戦略となり得るのである.