雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

アイデア展開リードタイムと人材獲得競争

相変わらずオライリー・シフト,即ちソフトがコモディティ化され,サービスやデータに付加価値が移るという議論について考えるのだけれども,重要なことのひとつに誰が優秀な人材をどう囲い込むか,という点がある気がしている.ソフトウェアというのは非常に個人がエンパワーメントされた領域で,トップノッチな少数な人々を集め,彼らに最大限のレバレッジを効かせることで,非常に強力な競争力を得ることができる.
たぶんインターネット以前,高いシェアを持つソフトウェア企業に入ることは,もっとも多くの人々に自分のアイデアを問う方法だったが,いまは違う.ネット上でいくらでもサービスを提供でき,誰もに最新版のサービスを提供できる.ソフトの複雑化やセキュリティ対策の重要性の高まりによって製品サイクルは長引き,新しいアイデアを組み込むために必要な努力やかかる時間は,ひどく大きなものになってしまった.知財を厳格に管理しようとすれば,製品化前にアイデアを共有したり世に問うことも難しい.
はてなは1回の合宿でひとりがさくっと実装できる程度の機能が,巨大企業では予算の承認や実装に何十倍もの時間がかかる.これではフィードバックを重ねて完成度を高める必要のある領域での開発競争には勝てないし,それ以前に開発者は社内の諸々で消耗して創造性を失うか,そもそも創造性のある人材が入ってこないのではないか.
かくも時間がかかる環境では,確かに機密保護が重要な経営課題とならざるを得ない.そもそも動きが競合他社より遅いという自覚がある上に,持ち前のスローペースのせいで滞留した不良在庫のようなアイデアが山ほどあり,競合他社に対する情報漏洩が経営的に深刻な結果をもたらすことに想像力が働くのである.
という訳で,eBayOracleを買収する前に,トップノッチの技術者をソフトウェアベンダが雇い難い時代に突入しつつあるのではないか.そうなるとソフトウェアベンダとしては比較的優秀な技術者を獲得しやすいオフショア地域に開発拠点を移すとか,他の追随を許さないほど複雑な技術によって製品を差別化しようと試みるとか,そういった方向に走ることが合理的な行動となる.しかしそれは,更なるソフトウェアの複雑化や人材難の深刻化によって身動きが取れなくなる前兆かも知れない.