雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

ITアーキテクト諸君、君は本当に姉歯建築士を笑えるか?

いま仕事でバンガロールにいる。インド人というのは本当に25x25くらいまで覚えているらしく、インド人のツアコンの前で1万円札を両替したら、いきなり1の位まで5桁の割り算を暗算されて、びっくりした。この調子なら、32bitや64bitの2進、10進、16進の変換なんざ一瞬であろうし、さぞ素晴らしいプログラムを書いてくれるのではないか、と期待が沸いてくる。にしても、話し始めると止まらないし、妙に聞き取りにくい英語を話す人々なので、口から生まれてきたのではないかと評されがちな私でさえ、あまり長丁場の議論はしたくない。理詰めで延々と議論が続くものだから、曖昧な仕様書を渡そうものなら、きっと著しく生産性が下がるに違いない。仕様のはっきりしているカーネルプロトコルスタックとか、機能のはっきりしたミドルウェアとか、いまあるソフトの最適化は頼みたいけれども、業務システムとかユーザー・インターフェースとか、つくりながら仕様を固めていく世界でインド人と仕事するのは、なかなか大変そうである。といっても僕はSEじゃないし、これからSEになるつもりもない。昔SEだったけれども、愛想が尽きて足を洗ったのだ。
欠陥マンションの話が出たとき、監査制度が機能していないとか、技術者の倫理がどうとか、そういう堂々巡りの議論が続くのを苦虫を噛み潰すように眺めていた。もう時効だろうから白状すると、僕も金融庁の監査が入る情報システムで品質管理書類のでっち上げに加担したことがある。Java・オープンシステムの案件で、技術に疎い元請からCobolメインフレーム系の品質管理手法を押し付けられ、正しく書きようがなかったのであるが。お役所はポンチ絵でシステムが二重化されているかを形式的に確認するだけだから何のお咎めもなかった。だいたい監査するお役所の方だって、よく分かっていないのだ。それでいて東証楽天証券のような事故が起こると、とってつけたように「ご指導」が入るのだから噴飯ものである。
品質管理絡みの書類を形式的に用意するだけでも萎えたのだが、カットオーバー直後の休日に使っているアプリケーションの脆弱性がみつかって試験環境で改修し、攻撃される懸念があったのでシステムの利用者がいない時間に本番環境についても緊急の改修をしたい旨メールを出したら、元請から「定期メンテナンスを待たずにソフトの入れ替えを提案すること自体、品質に対する考え方を共有できない」といわれて裁量権のかなりを剥奪され、こっちも頭にきて撤退してしまった。撤退してからも支払いを渋られたり、当時は妥当な技術的な判断に対して難癖をつけられたり、しばらくはゴタゴタが続いた。
他にももっと面白い仕事はあったし「このままでは予定通りにカットオーバーできない」と泣きつかれて乗り込み、超過勤務を重ねて立て直した案件だっただけに、恩を仇で返された気分だし、悪意が云々というより恒常的な業界慣行の香りを感じたので、もう二度と下請SEはやらない、特にこの業界には近寄らない、と堅く心に誓ったのであった。
いい社会勉強になったというか何というか、最初から踏ん反り返ってる顧客とか、顧客にペコペコ頭を下げつつ下請けに対して踏ん反り返る大手ベンダとか、間に入って下請けをいじめるn次下請けとか、権威主義食物連鎖のように不毛な重層的な下請構造を眺めていて、人月なんてスキルじゃなくて居場所で決まるんだよなーという確信を新たにし、これから職を選ぶときは気に入らない相手に頭を下げずに済む会社に入るか、自分で物事を決められる立場になろうと心底おもった。
建設の世界にも救いがたき重層的な下請け構造はあり、欠陥マンションの事件もその弊害を露呈させたけれども、設計と施工の分離とか、安全基準もはっきりしている分、IT業界と比べると真っ当なのではないか。情報システムで地震を待つまでもなく事故が頻発するのは、そもそも規制がないし、資格も任意だし、安全基準が確立されていないので、危険な安普請が野放しになっているだけである。
IT業界で安全基準を確立するには、まだ随分と時間がかかりそうだし、規制強化は時期尚早ではあるが、業界慣行を建設業界くらいに近代化する途はあるのではないか。僕もSEから足を洗って自分が救われるだけでは内心忸怩たる思いもあり、いろいろと調べたり提案したりはしているのだけれども、恐らく技術者の多くが内心では実態を分かっている上、銀の弾丸的な解決策がある話でもないので、なかなか話が進まない。
IT業界に身を置いて、姉歯建築士ヒューザーの倫理観の欠如を笑っているblogger諸氏も多いだろうけれども、いちど胸に手を当てて考えてみてほしい。自分のつくったシステムについて、どうやって安全性をを立証できますか、と。