議論よりは物語，論理ではなく共感，IT技術者なら資格や方法論より対話と即興かな
- 作者: ダニエル・ピンク,大前研一
- 出版社/メーカー: 三笠書房
- 発売日: 2006/05/08
- メディア: 単行本
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紀伊国屋で探したら新刊書のコーナーに置かれておらず，5Fの自己啓発書のコーナーで平積みになっていて，しかも大前研一の顔を大写しにした帯にドン引きとゆーか，あぁ僕も大真面目に大前研一の自己啓発書を読むほど下らない奴になったのか，とかなり凹んだのであるが．
書いてあることは『The World Is Flat. A Brief History of the Twenty-First Century』で取り上げられているようなグローバルな世界で，コンピュータやオフショアに代替されない仕事で高給を取るには，左脳だけでなく右脳も鍛えて，機能だけでなくデザイン，議論よりは物語，個別よりは全体の調和，論理ではなく共感，遊び心を持ってモノより生き甲斐を大切に生きていく必要がありまっせ，という話で，あぁこれはやはり自己啓発書のコーナーで大前研一を大写しにした帯をつけて日経新聞に「7.5万部突破」とかデカデカと広告を打つのが正しい売り方なのであろうと納得した．USでも受けたみたいだし，軽く20万部は売れるかもしれないね．
で，僕は自己啓発が必要なほど自信を失っている訳でも強迫観念がある訳でもないのだが，「議論より物語」とか「論理ではなく共感」というのは仕事をしていてつくづく感じていたことだったので，ピンと来て読んでみた訳だ．仕事をしていると議論に勝つことよりも，問題意識を共有できる物語を紡ぐことが重要であったり，理屈を推すよりも共感を得た方が話が早かったりする．あちこち本から引用して「だから○○は××だ」「周りはみんな馬鹿だから，自分のいっていることを理解しない」とか決めつけ押し付け空回りしているような真面目君は，きっと本書の影響を受けた方がいい．
しかし『フリーエージェント社会の到来―「雇われない生き方」は何を変えるか』を読んだときにも感じた違和感は，これって結局ホワイトカラー中流層で勝ち負けがはっきりしまっせという話で，しかも勝ちは1割もいないような世界で，この本を読んで救われるひとというのがどれくらいいるのか疑問だよなー，ということだ．コンサルタントとかは，薄々感じていたことを奇麗に整理されてるんで本書を絶賛するだろうが，そういった人々はもともと勝ち残っている訳で，本書を読んだからそーゆー仕事に就けるかというと，そうでもない気がする．
本書を読んで奮起するのは高学歴だけど就職ではイマイチ成功せず，鬱々と仕事をしながら「何かいいやり方があるはずだ」と堂々巡りしている人々かも知れず，本書を読んで仕事のやり方を変えてみて，突出するかも知れないし，しないかも知れない．本人の素質の問題もさることながら，世の中には突出させてもらえる世間と，突出しようのない世間があるものだから．
ところで本書には，プログラマはインドや中国にもいるし，プログラミングの自動化ツールも急激に進歩しているから，プログラミング・テクニックを持っているだけで高給を取れる時代は続かないというようなことが書かれている．どんなプログラムをつくるかというコンセプトは重要だが，プログラムをつくれる能力そのものが高給で報われる時代は長くないだろうよ，と．これは僕が昨年末にバンガロールのInfoSysを訪問したときにも感じたことであるが，RUP，CMMとかITILとかBS7799とか，そーゆー予測可能性や品質管理でガチガチに縛っていく世界は，簡単に切り出せるからオフショアにいっちゃうんだろうな，ということだ．個人でいえばベンダ資格とかも同様．持ってるといった途端にインドや中国の技術者と比べられちゃう時代がきている．「○×の資格を取れば人月○×万円」とゆー世界は簡単にはなくならないだろうけど，相場は限りなくコンビニのアルバイトに近づいていくってこと．
ただピンクがどこまで分かっているか怪しいが，プログラムの自動化ツールって結局のところプログラミング環境なのだ．コンパイラやIDEが一種のプログラム自動化ツールであるようにね．だから，プログラミングの生産性が高まり続ける限り，最先端の生産性で，コンセプトをプログラムとして具現化できるプログラマは，消費地に近いところでコモディティ化せずに生き残れる気がする．けどそれはCobolやPL/Iで基幹系ゴリゴリとか，最新のメソトロジとツールを駆使してモデル駆動開発とかではなく，Web 2.0なマッシュアップ，RoRで即興プログラミングとか，そういう方向なんだろうか，やっぱ時代はLLでXPですか，ウーンとか考えこんでしまった．
