雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

誰が次世代テレビを制するのか

中島氏がユーザーエクスペリエンスをサーバーではなくテレビ本体に持たせる点について批判しているが,テレビ局とテレビセットメーカーと電話屋で決めれば,こういうアーキテクチャになるに決まっている.テレビ局はネットからのリビング参入を排除し今の電波にできるだけ近い世界をつくりたいと考えているし,セットメーカーはユーザー体験をメーカー毎のテレビの差別化要素と考えているし,電話屋はARPUさえ増えればいいのだから.伝送路が放送波かIP網かという違いしかない方が話が早い.

ウェブ・サービス・ビジネスでリーダーシップをとっているAmazonGoogleが何をしているかを注意深く観察すれば、デバイスがネットに繋がってくると、ユーザー・インターフェイスはデバイスの顔ではなく、サービスの顔になってくることは、火を見るよりも明らかだ。「EPG・ECGのデータをメタデータとして取得して端末独自のUIでそれを表示させる」というアーキテクチャがいかにこれからの時代にふさわしくないかを認識した上で、ぜひとももう一度考え直していただきたい。こんなアーキテクチャのままでは、IPTV市場そのものの立ち上がりが危うくなるし、end-to-endでサービスからUIまでのすべてをコントロールできるAppleMicrosoftとは戦えない。

ところで彼らの戦う相手はAppleMicrosoftなのか.これまでのところAppleMicrosoftもリビングに進出しかねているし,テレビだってキャプテンシステムの昔から何度も双方向サービスに進出しようとして大きな戦果は上げていない.敢えて通信と放送の連携のようなもので成功例を探すとネットからテレビコンテンツを扱う仕掛けとしてはiTMSビデオやYoutube,ネットでHDレコーダを賢くしたTiVOか.どれも通信と放送の融合というよりパソコンはパソコン,家電は家電の使われ方の中で新たなニッチ市場を開拓している.これらのサービスは既存の何かを置き換えようとしているのではなく,無消費に切り込んでの成功である.パソコンがリビングを乗っ取ることはなかったし,テレビがコミュニケーション・デバイスとなることもなかった.
ひところテレビパソコンが流行ったが,どちらかというとワンルームに2つもモニタを置けない単身者向けである.これもテレビをみながらネットが出来ないというので市場は縮小気味だ.パーソナル・コミュニケーションは携帯,リビングでの場の共有はテレビという住み分けは続く.パソコンは仕事やコンテンツ製作,ヘビーユーザー向けの道具となる.いま私がそうしているように,テレビをみながらパソコンで長文を書く,携帯でメールするという使い方である.テレビにメールやブラウザの機能がついても,正直そこでメールやmixiをしたいとは思わない.だいたいテレビのリモコンやゲームのコントローラは文字入力に向かないし,テレビをマウスやキーボードで操作するのは無粋だ.テレビやプロジェクタで場を共有しつつ,携帯やパソコンといったパーソナル・デバイスと併用するという現在の棲み分けは,それなりに安定しているのではないか.
二画面視聴時代のユーザー体験で真面目に試行錯誤しているのはゲーム業界である.まだまだこれからだが,Nintendo DSWiiの連携,PS3PSPとの連携などから,いくつか先駆的な取り組みが出てくるのではないか.双方向では失敗したことしかないテレビに対してゲーム機のエコシステムが,うまく次代のクリエータを巻き込むことができればイノベーションが起こるかも知れない.
仮に次世代テレビなるものが競争の構図を変えるとすれば,これまでよりも劇的な低コストで回線とか足回りを含めたインフラを構築できる技術を開発し放送の行き渡っていない地域に売るか,明らかにテレビを超えるユーザー体験や利用シナリオを提供する必要がある.
リスクヘッジで嫌々ながら新媒体に一枚噛もうという民放キー局は,AmazonGoogleの動向に目を光らせるどころか,デジタル化以降も自分たちのビジネスモデルをどう維持し続けるかで手一杯ではないか.そして放送局こそコンテンツクリエータと信じているテレビセットメーカーも電話屋も, FTTH網上でもうひとつの地上派放送を構築することにしか興味がない.そして世界屈指の人口密度と歪んだ投資インセンティブで光アクセス網の構築に邁進する日本でしか売れそうもない車輪の再発明に,膨大なエンジニアリング・リソースが費やされようとしている.
もはや負けが固まりつつある携帯電話端末事業について遅まきながら国際競争力を考える研究会が立ち上がりつつあるが,まだ国際的に高い競争力を持つテレビの世界では狭い日本市場での囲い込み競争に余念がないようだ.日本のテレビ産業がi-mode絶頂の2000年初頭のような熱狂と陶酔ではないことを祈っている.テレビセットメーカーがビジネスモデルや世界市場,ネット上の技術革新よりも電話会社やテレビ局のご機嫌を気にしているようなことがあれば,遠からず来るであろう設備過剰時代に苦労するかも知れない.FPDベンダは往年のDRAM市場だけでなく,携帯電話市場の歴史からも学ぶべきことがあるのではないか.
スマートフォンのプラットフォーマがMicrosoftAppleではなくQualcommSymbian,R.I.M.であったように,気付いてみたら世界のどこかにIPTV時の要所を押さえたプラットフォーマが登場しているかも知れない.いずれ放送もEverything over IP / IP over Everythingの時代がくるとして,その端緒はFTTH上での地上波再送信ではなく,「まいにちいっしょ」の「トロ・ステーション」のようなゲーム機の付加機能の延長とか,放送インフラどころか通信インフラも普及していない辺境の映像メディア,例えば中東やアフリカの僻地でWiMAXメッシュを使ってテロ組織がP2P映像配信を始め,流行ったコンテンツがアルジャジーラで再送信されるとか,そういう世界からかも知れない.