雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

意外と裾野の広いウィキノミクス

『フラット化する世界』は月並みだったが,本書は意外とバランスが取れていて驚いた.オープンソースとかマッシュアップの話ばかりでなく,イノベーション民主化,例えば製薬業界に於ける遺伝子情報の共有とか,ボーイング787に於けるモジュール化とか,設計段階からの部品ベンダの参画とか,全般的な内容としては何となく気付いていることが,豊富な事例で例証されているところが目から鱗.ピア・プロダクションの時代にどう振る舞うべきかについて,ベストプラクティスを例示しているところも興味深い.
確かに活用されていない知的資源を組織化する方法として,ピア・プロダクションは極めて有効だが,ではそれが適正な評価システムなどを通じてB2B取引の主要な経路となるのか,altanativeであり続けるのかは考えさせられる.本書がピア・プロダクションと呼んでいる範囲は広く,例えば取引関係の水平化なども含むので,そういった意味では明らかに時代の潮流はそっちに向かっているけれども,それが雇用の流動化や知的労働のアウトソーシングまで含めると,じゃあ最後の雇い主って誰になるんだろうとか考えさせられる.
様々な独占的資源を解放するためには,解放した方が有利だという,無知の知,或いは誰に敵わないかという冷静な自己判断が必要で,IBMは比較的それが早く俊敏に動けたし,コンフリクトの小さい事業を手元に残した.けれども裏を返せば,彼らは苦手な仕事を手放しても,労働集約的なコア事業があったので,あまり追加的なレイオフはせずに業態を転換できたのだろう.それが一般的なケースなのかどうか,よく分からない.というか,結局のところフラット化された世界でマネタイズできるのって,胴元になるか地べたを這うように泥臭いことをやるかで,どっちも分かってたって真似できないか,誰も真似したいと考えないってことなんだろうか.
日本の家電メーカーとか,プラットフォームに軒並みLinuxを採用した割には,全くピア・プロダクション時代に追いついていないのではないか.いや,取引先企業との水平的な関係という点では,ボーイングより先を行ってそうだが.うーん.こうやって改めて読んでみると,ラジカルな話と一般的な話と織り交ぜて書かれている分,批判が難しい.これってコンサルっぽいテクニックだよなー.悔しい.別にいいけど.
まあ,オープン戦略の下心とか限界も含めて比較的体系的かつ事例に基づいて書かれているので,読んで損はしないんじゃないかな.