雑種路線でいこう

ぼちぼち再開しようか

君はYahoo!が黒く染まった日を知っているか

昨年末に公表された通信・放送の総合的な法体系に関する研究会の最終報告書を受けて、日本経団連「通信・放送融合時代における新たな情報通信法制のあり方」を取りまとめた。内容は広範に渡るがオープンメディアを規制対象に含めている点を不適当と言及するなど重要な指摘を行っている。
情報通信法(仮称)に現行放送法も溶かし込む時点で総合編成などコンテンツの内容に踏み込んだ規制を織り込もうとするのは自然な発想ではある。但し、地上テレビ放送等を特別メディアとして現行放送法の水準で規制する根拠を「特別な社会的影響力」に置くとすれば、地上テレビ放送だけでなく大手ポータルサイトアルファブロガー(笑)も規制せよと旧メディアが騒ぐのも分からないでもない。
それに対し新法を「事業としてサービスを提供する者を対象とする事業者法」と事業法の枠に押さえ込むことで、個人や企業のホームページを規制対象から外す日本経団連の論法は、筋が通っているし穏当な批判といえるだろう。けれどもこれでは事業として情報提供サービスを提供するポータルやニュースサイト、ブログ・動画投稿などCGMサイト等の扱いは微妙だ。私を含む多くの個人は事業としてサービスを提供するCGM事業者やISPを通じて情報を発信しているのであって、事業者が規制の対象となれば結局のところ表現の自由は担保できないのである。そう考えると政府によるコンテンツ規制から表現の自由を守り抜く論拠としては心許ない。
地上放送が騒がしいバラエティ番組ばかり垂れ流している現状をみるに、放送法の理念としての総合編成が形骸化していることは火を見るより明らかだし、放送法制定時のように地上放送しかない時代ならいざ知らず、ケーブルテレビや衛星放送、インターネットといった様々な代替選択股がある今日、役所が放送局のコンテンツ内容を縛る必要は本当にあるのだろうか。番組基準や番組審議会制度など全て取っ払ったところで、何ら問題ないのではないか。法律で縛ったところで「あるある事件」のような杜撰なコンテンツを防げなかったのだし。
ひとことに真実といっても、取材の事実を指すか、技術的な事実を指すかなど議論し始めると際限がなく、個々人の価値観に根ざした議論となってしまう。そういった裁量を残すよりも、外部からの批評に対してアクセスさえ担保していれば、内容に対して規制する必要はないのではないか。テレビのように一方的で批評へのアクセスを提供しておらず、引用を認めない媒体に限って、現行放送法の訂正放送に相当する規制は引き続き必要だろう。トラックバックを受け付けていない、或いは約款で引用を認めていないサイトに対しても同様の規制があっても構わない。
ネット上のコンテンツをどこまで規制すべきかは、非常に息の長い闘いだ。米国では96年2月に通信品位法が成立し、これに反発したネットメディアは一斉にホームページを黒地に白抜きとして喪に服し抗議した。Yahoo!のホームページも真っ黒になったし、マイクロソフトのホームページも黒くはならなかったがFree Speech Onlineのバナーが掲げられた。当時ぼくは受験生だったが、もともと黒地に白のページデザインだったから、やることがなく顔写真を張っていたところをキャンペーンのロゴに差し替えた。通信品位法は無事、違憲判決を受けて葬られた。歴史的にも表現の自由は、お上から与えられるのではなく表現者が主張して勝ち取るものなのである。
情報通信法にネット上のコンテンツ規制を容認し得る兆候がみられるならば、法律が通る前に徹底的に議論して対案を示す必要がある。特に日本の場合は裁判所の違憲立法審査権が形骸化していることもあって、法案が通ってからの闘争が極めて難しい。法律の文面は一人歩きするので、立法主旨や担当官のご説明だけではなく、一字一句を読んで様々な可能性を思料すべきだろう。
現在の有害コンテンツ規制は子供向けのフィルタリングに限って論じられているが、欧州の動向を踏まえると、いずれ大人に対しても何らかの規制が議論されるようになる可能性がある。そういった場合に情報通信法のコンテンツに対する「『特別な社会的影響力』に重点を置いて、コンテンツ規律を再構成」という立法主旨が、いつの間に地上放送だけでなくネットにまで拡大解釈される危険性がないとはいえない。だからこそ「特別な社会的影響力」を根拠に放送法並のコンテンツ規制を正当化する論理は非常に危険なのだ。別に法的安定性を持った線引きを考えるか、時代の変化を受けた地上放送に対するコンテンツ規制緩和を検討する必要があるのではないか。
法案が通って後の祭りにならないよう、今のうちから議論を尽くすことが重要だ。

新たな法制度においては、コンテンツは原則自由で民間の自己規律に委ねることを基本とした上で、規制は必要最小限とすべきである。また、新たな法制度は、通信・放送あるいは融合分野において、事業としてサービスを提供する者を対象とする事業者法であり、コンテンツ規律のあり方を検討する際にも、一般的なコンテンツの編集・発信主体としての個人や企業は、直接的な規制対象とはすべきではない。したがって、メール、電話等の私信は勿論、ホームページ等は本法制の枠外にあることを明記すべきである。この点、総務省・研究会の報告書は、私信については、通信の秘密を保障するが、ホームページ等、「不特定の者によって受信されることを目的とする電気通信の送信」を「オープンメディア」と位置付け、規制対象に含めている点は不適当である。

2月3日には、VTW(ボーターズ・テレコミュニケーションズ・ウォッチ)他何十もの組織が連合して、2月いっぱい「違憲の通信品位法阻止キャンペーン」を行うように、また法案署名直後から48時間にわたる抗議行動に立ち上がるように、全国のインターネットのユーザーたちに訴えた。具体的には「各人のWWWのホームページの背景を黒に、文字を白抜きにすることで、インターネットが米国政府から受けたこのような二流メディアとしての扱いを受け入れない意思の表明」をしよう、またクリントン大統領には抗議の電子メールを送ろう、と呼びかけたのである。